タイムリミット
 




翌朝、目が覚め障子を開ければ素肌が出ている部分がピリピリと痛んだ。
どうやら雨は、山の中のこの家では雪に変わってしまったらしい。
まだ薄暗い朝に、ほんのり雪の白が浮かんで見える。


なんだかもう、この雪に埋れて一緒にとけてしまいたい。


そう思うと自然に白いため息が出る。





「なんだ、ふられたのか?」

声のする方を見ると犬神が伸びをしていた。
ここ最近は寒いからと、よく布団に入ってくる。
俺自身も暖かいからいいのだが、仮にも神がそんなんでいいのか。
とりあえず、犬神の言葉には反応せず、部屋に戻り寝間着から道着に着替える。


「サラシなんざつけないで、女物のハイカラな下着でも着たらどうだ。
それで酒でも飲んで迫ればあの狐、案外ころっとおちるんじゃないか?」

「サラシじゃないと、修行がしずらい。
それに蔵馬がそんなもんに引っかかるはずがないだろう。」

犬神の言葉を適当にあしらいながら髪を結う。



「...修行の邪魔になる程あるように見えないが...」

「...。」


暫く犬神と口をきかないと心に決めた。










昼近くになり、修練を終え昼食の支度をする。(味付けや火加減の調整が絶望的に苦手なので、自分は下準備だけをする。)
野菜を切る音だけが台所に響くが、次第に外が騒がしくなる。


来訪者か...


切った具材をざるにまとめ、前掛けの紐をほどき声のする方に足を進める。
すると、門の前に師範と1人の男がいた。
師範が俺に気付くと、茶の用意をするようにと言った。


お茶と適当な菓子折りをぼんにのせて部屋に行く。
部屋に入ると、師範が男の話を聞きいていた。
その男も蟲寄市の能力に目覚めた人間で、生きている人間の魂が見えるようになったらしい。


そういえば、数日前に仲間の魂が戻らないとか言って訪ねてきた学生がいたな...


1時間後、その男が帰り片づけをしていると師範が何やら準備をしていた。


「...お出かけですか。」

「少しな。留守番は頼んだぞ。」


そう言い出かける師範のあとを何故か犬神もついて行った。

留守番か...
要するに俺はついて来るなということだろう。
再び台所に戻り、湯のみなどを洗う。
思えば、こうしてこの家で1人になるのは初めてかもしれない。
洗い物を終え、居間のコタツに入りうとうとする。
暫くすると外に人の気配を感じ、目を開ける。



「兄さん、外にいないで入りなよ。」

障子を開けると、縁側に兄が座っていた。



「仙水忍に会ったのか。」

「...兄さんはあの男に手を貸しているのか?」


部屋に入ってくる様子のない兄の隣に座る。
積もっている雪は一向にとける気配はない。


「俺は、界境トンネルが完成すればそれでいい。
邪魔さえしなければ、何もしない。」

「まるで、俺たちが仙水と戦うとでも言いたげだな。」


兄の顔を見ると、どこを見ているのか、ただ真っ直ぐ前を向いているだけだった。


「霊界も蟲寄市で異常が起きているのを探知している。
そうすれば、あの霊界探偵にも話が行くだろう。
仙水忍も元は霊界探偵だった男だ。それに戸愚呂・兄もこの一件に関わっている。
お前たちが戦うのも時間の問題だろう。」


「...やっぱり俺は、師範や蔵馬たちを裏切ったんだな。」


そう言うと兄が少し驚いたようにこちらを向く。


「あの男と会った時、予感はしていたんだ。きっと幽助とこの男は戦うと。そうすれば蔵馬たちも戦うことになるって。

でも約束してしまった。
仙水が何をしようと干渉しないが、俺にも干渉するなと。
恐怖心に負けた。あの男に勝てないのと、昔の記憶に。」

そうだ、俺は皆を裏切ってしまったんだ。
境界トンネルのことも、仙水のことも、これから起こることも知っていて誰にも話していない。

そして兄に最近見る夢の話も話す。
兄は何も言わず、ただ黙って俺の話を聞く。
そして気になっていたことを兄に聞く。


「兄さん、もしかして俺はもう、そんなに長くないのか...?」













その頃、蔵馬たちは何者かに攫われた幽助を救出するべく、飛影を見つけたところだった。
だが、飛影は一向に手をかす素振りを見せない。


「俺じゃなく、血の瞳を呼べばいいだろう。
あんなバカの面倒いちいち見ていられるか。」

「脅迫状にはあんたがいないと幽助を殺すって書いてあるんだよ!
...なまえちゃんの名前は書いてない。」

ぼたんが必死に飛影を説得する。だが飛影の態度は変わらない。



「仮に、敵の力が全く未知のものだったら...
数日前になまえから聞いたんですが、最近、妙な能力を持つ人間が現れているらしいんです。」

「...そんな人間たちに幽助が捕まったと言うのか?
血の瞳がその人間たちの情報を知ってるんなら、なおさら何故血の瞳を呼ばん。」


飛影の言葉にぼたんと桑原は何も言わず蔵馬を見る。



「...なまえは、その人間たちの件で今日も仕事なんでしょう。連絡がつきません。
もう時間がありません。飛影、貴方の協力が必要なんです。」

「...とにかく、これで幽助を助け出してくれたら、もう霊界は一切あんたに関知しない。」


ぼたんの言葉についに飛影が首を縦に振った。









タイムリミット fin.2014.2.9



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