エリーニュスの目覚め
 





「...今日で15人目か。」


暗黒武術会が終わり、一息つけるかと思いきや
ここ連日来訪者が多い。
一般人ではあるのだが、皆口々におかしな能力が開花したという。



来訪者だけではない。
自分達の優勝によって、人間界にいる妖怪たちも大人しくなるかと思いきや、その逆だった。
むしろタチの悪い輩が増えている。
連日連夜何かと働き詰めで、暗黒武術会時よりある意味疲労が蓄積されている。





異変が起きているのは周りだけではない。
ここ最近おかしな夢ばかり見る。
過去に見たことのあるような、ないような。そんな夢。

思わずため息が出る。







「ため息ばかりついていたら、幸せが逃げますよ。」
声のする方を見ると、蔵馬が立っていた。


「...。」
黙っている俺を余所に、蔵馬は俺の隣に座る。


「俺に出来ることがあれば、いつでも言ってくださいね。」
そう言い俺の手をぎゅっと両手で包みこみ、そのまま顔を近づけてくる。











「...犬神。シャレにならない悪戯はやめろ。」



俺がそう言うと、蔵馬は瞬く間に黒い霧の様なものに包まれ、黒い獣が現れる。


「おや、バレたか。」

「黒い尻尾が隠れてなかったぞ。」


俺がそういうと、犬神はくつくつ笑う。




「流石に化けるのは狐の専売特許のようだ。」

「狸もだろ。」


そう返すも思わず頭を抱える。
ここ数日の悩みはこの犬神も協力して生み出している。
何かと蔵馬に化けてはちょっかいを出してくるのだ。
(初日は朝起きたら蔵馬に化けた犬神が一緒の布団で寝ていて心臓が止まりかけた。)



「...俺はもう自由にしていいと言ったはずだが?」

「だから言われた通り自由にしているじゃないか。」



そういう意味じゃないんだけどなぁ...
本日何度目かのため息をつく。



「なんだ。不満があるのか。武術会で何の見返りもなしに戦ってやったじゃないか。」

そう言い犬神がずいっと顔を近づけてくる。


「それの事だが、なんで俺から何も奪わなかった?」
あの時からずっと不思議だった。


犬神は俺が生まれた時からいたわけじゃない。
6年前、山奥で修行していたところ不意を突かれて取り憑かれたのが始まりだった。
師範が除霊しようとしたが、俺と犬神の精神があまりにも同調し、逆に犬神を除くのが危険だと判断し、そのまま俺の中に師範が封印したのだった。
だからこそ、犬神は何かしら俺に恨みがあってもおかしくないのだ。



「...お前から奪うものなんて何もありはしないさ。」

「え...?」

「...そろそろ散歩の時間だ。」


そう言い犬神は空高く駆けあがりどこかに消えていった。



生ぬるい湿った風が一陣吹き抜ける。
それに思わず顔をしかめる。
やはり、何も終わってなどいない。
あの時の予感は確信に変わった。









エリーニュスの目覚め fin.2014.1.13



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