暁の夜
 





「「幽助!!」」

倒れ込む幽助を支えようと蔵馬が駆けよる。


「幽助!!しっかりしろ!!
勝ったぞ幽助!!君が勝ったんだ!!」

「...俺...生きてんのか...」

「そうだ!お前が勝ったんだ!!見事な一発だった!!」


蔵馬とコエンマに自分が戸愚呂に勝ったことを告げられるが、残るのは後悔のみだった。






「目の前で俺は...何もできなかった!

今から俺は何をしてやればいいんだ!!」



そんな幽助の姿を見て、なまえも後悔に襲われる。
自分に非がないわけじゃない。
あのとき、自分が桑原を止めていれば...














こんなこと...












には...?











「...え?」



地面から顔を上げて、幽助の方を見れば
幽助の目の前で桑原がピースをしながらステップを踏んでいる。
挙句、よっ。元気?なんてのたまっている。

幽助はといえば、涙と鼻水とその他色々な感情が入り混じりとんでもない顔になっている。
その横で蔵馬が事の経緯を幽助に説明している。




「...コエンマさん。」

「なんじゃ。」

「霊体っていうオチはないですよね?」

「...流石に幽助といえども、霊体を殴りつけることはできんだろう。」



見れば桑原の顔は、幽助の拳によってボコボコにされている。
そして話しは何故戸愚呂は桑原を殺さなかったのかということに変わる。


飛影の見解は、桑原の諦めの悪さが要因であるということだった。
生死をかけた戦いの後にも関わらず、相変わらず桑原と飛影は馬が合わないらしい。


「...はじめから戸愚呂は、桑原君を殺す気がなかったんじゃないかな...
俺には彼がずっとこうなることを待っていたような気がしてならない...


本当に強い者が自分を倒してくれることを...
悪役を演じ続けてでも...」


蔵馬の意見には一理ある。
8年前、戸愚呂が自分を殺さず、師範の元へ託したのもきっと...



そんなことを考えていると、突然会場中に地響きが鳴り響き、天井が崩れていく。

この状況でこんなことをするのは...


「「左京!」」


左京を見れば、手にはスイッチのようなものを持っている。


「たぶん蔵馬君が言った方が正解だろうな。

かけは私の負けだ。潔く認めよう。
敗因は戸愚呂の本質を見抜けなかったこと...とでも言っておくか。


ドームは間もなく爆破する。
私と私の野望もろともな。」


左京の言葉に、観客達は脱出をはかり一斉に走り出す。
その波になまえ達は飲み込まれ、思うように進めない。
しかし、桑原が突然雪菜の名を叫び
観客を飛ばしながら走りだしたため、道が出来る。


桑原の後を追おうとなまえ達も走りだすが、なまえはハッとする。


(兄さん!!)

会場を見ても、今はもう左京の気配しかしない。


(まさか瓦礫の下敷きに...?!)

思わず戻ろうと進路を変えようとしたところに、腕をぐっと引っ張られる。



「...蔵馬。」

「今はここから出よう。」


そう言い、蔵馬はなまえの手を強く握り駆け出す。















なまえ達全員が脱出するのを見計らったかのように、ドームはけたたましい爆発音とともに消滅する。

藍色の夜空が、激しく燃える炎によって赤色に染まる。
その色がまるで朝焼けのようで、なまえはこれからまだ何かが起きるような、そんな予感がした。



空から地上へ目を向けると、幽助と螢子の喧嘩の仲裁を蔵馬とコエンマがしていた。

蔵馬の姿を見ると、先ほど握られた手の感触が鮮明によみがえる。



しかしそこに突然温子が叫び声が響く。


「優勝したらそれぞれ一つずつ望むものが貰えるんでしょ?!
これじゃ何にも叶えられないじゃないの。」


「...いーよ別にそんなもん。
どーせ一番の望みはやつらにゃ叶えられねーしよ。」

「...。」




「おーーーーーい
ばーーーーーーさーーーーーーん


勝ったぞーーーーーーーーーー!!」


















それから数日間、なまえ達は傷の回復も兼ねてホテルに滞在することにした。



ホテルを抜け、なまえは海辺を歩く。
そして波が届かないところで座り込む。
海は空を映すように深い鉛色をしていた。



「...一応これでも心配したんだ。」

「一応か...。」

ふっと静かに笑う声が聞こえ、隣りに兄が座る。



「だって兄さんが、あんなところで死ぬはずないだろう。
...魔界に行くのか?それとも...」


じっと兄さんの横顔を見る。
相変わらずその琥珀色の瞳はどこか遠くを見ていた。



「...良い仲間に巡り合えたみたいだな。」

そう言いこちらを向いた兄にくしゃりと頭を撫でられる。


「兄さん、俺...」

兄さんに謝りたいことが...


その言葉は続かず、海からの強い風に目を瞑り
次に目を開けた時にはもう、その姿はなかった。










「嫌われちゃったかな?」

その声に振り向けば、少し困った顔をした蔵馬がいた。


「嫌われる...?」

「気にしなくていいよ、こっちの話し。
部屋に戻ろう。そろそろ雪が降りそうだ。」



蔵馬の言葉に素直に立ち上がる。
その後、2人で部屋に入る姿を温子たちに目撃されて一騒ぎが起きたのはまた別の話し。








暁の夜 fin.2013.12.15



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