賭け
 



戸愚呂・弟と幽助がリングを隔てて対峙する。
会場内は今までの殺気や熱気が嘘のように静まり返っていた。


しかし、そこへ戸愚呂チームオーナーの左京がリングへと上がる。
予想外な行動に会場はどよめきだす。
そんな会場のざわめきを余所に、左京は審判からマイクを借りる。



「...第5試合を始める前に賭けをしたい。
私は戸愚呂が勝つ方に賭ける。賭けるものは...


賭けるものは私の命だ。」


左京の申し出に再び会場は静寂を取り戻す。


「なるほどな。この試合を事実上の優勝決定戦にするわけか。」

飛影の言葉に左京は肯定の意を返す。
そして、この試合に勝った方に6試合目の分も含めて2勝を与えると。
それだけの価値が、この戸愚呂と浦飯幽助の戦いにはあると左京は断言する。


「もちろん、そちらの大将と大会本部がイエスといえばの話だが...。」


会場の視線がコエンマに集中する。


「いいだろう!ワシの命を浦飯幽助の勝ちに賭けよう。」

コエンマの言葉に幽助は、本当にそれでいいのか。という意を込めコエンマを見る。
そんな幽助に対しコエンマは、少しはかっこつけさせろ。と言う。



「...なにより気になるのはあの左京という男。
あやつの眼は自分の命を何度もドブにさらしてきた人間の眼だ。

保身を考えない人間の抱く野望は他人は愚か、自分自身をも巻き込む巨大な破壊行為と相場は決まっとる。



...それを止められる人間は、この場にお前しかいないんだ幽助。」



コエンマの言葉になまえは、視線だけ兄に向ける。
右肩の傷口の出血は、自分で止血したのか止まっているが、自分が悪魔の腕ごと奪い取ってしまったため肩から下は無くなってしまっている。

兄のその姿を見て、今更酷い後悔に襲われそっと視線を幽助の足元に戻した。




「話がまとまったぞ!
あとは本部がうんと言うかどうかだ!!」

「お静かに。本部運営委員会議を行います。
10分間休憩とします!!」


本部のアナウンスに肩の力が少し抜ける。
幽助を見れば依然、前を見据えたまま立っている。
そんな幽助の名前を呼べば、いつもと違う凛とした表情がこちらを向く。


「これは、今までみたいな"楽しい"戦いじゃない。
本気で挑め、何とかなるとは思うなよ。今度こそ、本当に死ぬぞ。」

「...わーってるよ。」

そう言い、幽助は再び前を向く。



本当にわかっているのか...
確かにいつもよりも感情的には冷静なようだが、幽助の纏う霊気がいつもより好戦的なのだ。




「...心配?」

ふいに蔵馬の声が耳に入る。


「眉間にしわがよってる。」

「...幽助が本当に本気を出せば、戸愚呂が100%になる前に倒せるかもしれない。
だが、今の幽助に自分の本当の力を出せるほどのコントロール力がない。」



今の幽助には経験が足りない。
自分自身の命を取られる寸前の感覚、大切なものが奪われ消える感覚...



こんな経験、しないのが一番いいのだが
今幽助が置かれているこの状況では確実に必要なものだ。


やはり犬神を放すべきではなかったか...






「判定が出ました!


両者の意向を認めます!!!
この試合で勝った方に2勝を与え、同時にそのチームを優勝とします!!!」


そのアナウンスに会場中が沸き上がる。
そして幽助と戸愚呂はリングで対峙する。

しかし、このまま決勝戦が始まると思いきやリング上に不気味な笑い声が響く。
その笑い声が一段と大きくなったと同時に、桑原に倒されたはずの戸愚呂・兄が地面から勢いよく出てくる。



「これでてめェらの死は確実だぜウラメシ!!てめェは弟にゃ勝てねェ!!
あの幻海でさえ負けたんだ!!幻海でさえな!!!」

そして立て続けに戸愚呂・弟は幻海を愚弄する。


それに再び怒った桑原が身を乗り出すが、蔵馬に制される。
場違いなクズはすぐに消えると...



その言葉通り、戸愚呂・兄は戸愚呂・弟によって
その体は粉々になり場外へ吹き飛ばされていった。



そしていよいよ最後の戦いが幕を開けた。









賭け fin.2013.12.15



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