負けられない
 




「試合終了!龍選手の勝利です!!」


「なんかよくわからんが戸愚呂チームの一勝だ!!」

「あとは戸愚呂兄弟の連勝だ!!100%戸愚呂チームの優勝だぜぇぇ!!!!」


会場には再び熱気と殺気がむせ返っていた。


「ったくいちいちうるせぇ外野だぜ...。
なまえ!!大丈夫か?!」

蔵馬に抱えられながら帰ってきたなまえに桑原が声をかける。


「...死ぬかと思った...。」

なまえの言葉に思わず幽助たちは噴き出す。


「俺も死ぬかと思いましたよ...。
あのまま短刀振り下ろされてても、反撃する力は残ってませんでしたからね。」
緊迫した空気から抜け出し、蔵馬は息を吐く。


「蔵馬...。」
なまえの呼びかけに、蔵馬が視線をなまえに移す。


「兄さんを...救ってくれてありがとう...。
俺じゃどうにもできなかった。」
ありがとう...。

そう言いながらなまえは目を閉じた。











「せっかくの8年間の努力が水の泡だねぇ。」
戸愚呂・弟が龍に話しかける。


「全くですよ...どういう結果にしろ、悪魔に魂と肉体食われて消えるつもりだったのに。
...同じようにあいつも8年間、努力してきたってことですかね。」
自分の生きたいように生きるために...

ふっと、龍の顔が和らぐ。


「くくく...その8年間の努力も無駄になるさ。
なんせ、俺達兄弟があいつらを殺してしまうからなぁ...!」

ケケケケ!と不気味な笑いをたてながら、戸愚呂・兄はリングへと向かう。
そんな戸愚呂・兄を、龍と戸愚呂・弟は黙って見送る。





(1勝2敗...飛影の圧勝で浮かれてたが、絶対にここで俺が負けるわけにはいかねぇ...!
えーい負けるか!!俺にはスペシャルソードがある!!)

手に汗握る桑原にコエンマが、顔色がすぐれんぞ。と声をかける。
それに対して、てめーに言われたくねー!と桑原はいつもの調子で返す。

「ったく屁の役にも立ちゃしねー。
バーサンさえ来てくれりゃ、俺の相手はあの長髪オヤジでもよかったんだ。」

桑原の言葉に飛影は目を見開く。



「まさかあいつは、まだ幻海の死を知らんのか。」
飛影の言葉に蔵馬が、らしいね。と答える。


「幽助、なぜ奴に教えてやらんのだ。」
さっき俺が言ってやればよかった。と飛影がこぼす。

幽助は飛影の問いには答えず黙ったままリングを見据えていた。



「桑原。」

なまえの声に桑原は振り返る。



「死ぬなよ。」

「ったりめーよ!任せとけ!!」

そう言いリングに上がる桑原を、なまえは不安の籠った目で見送る。
そんななまえを蔵馬は静かに見ていた。



「第4試合...始め!!」


試合の合図早々、桑原は鈴木から貰った柄のみの刀を取り出し、己の霊気をそこに集める。

すると霊気は刀の形へと変化し、桑原の身をも守るように包みこむ。
そして桑原はそのまま迷うことなく、戸愚呂・兄へと斬りこみに行く。



ドスッ



桑原の霊剣は戸愚呂・兄を真っ二つに斬り裂く。
あまりにも呆気ないそれに、全員が目を見張る。


「...。え...?どうなってんだ?」
桑原自身も、目の前で起こっていることに信じられないといったように唖然とする。


「っ気を抜くな阿呆!まだ終わってない!!」
なまえが桑原に向かって叫ぶ。
だがそれと同時に全身に痛みが走り、なまえは地に伏せる。



「お、おい!なまえ!どういうこと...!」

桑原がなまえに向きかえろうとしたその時、
ドス!!っと背後から鈍い痛みが走る。


「ぐっ...!」
桑原はその勢いのまま地面に倒れる。


「くくく。こういうことだよ。
お前ほど単純だと騙す俺も気分がいいよ。」


桑原が後ろを見ると、もう一人、戸愚呂・兄がそこにはいた。


「俺の体で作ったダミーだよ。擬態さ。
姿形はおろか、内臓の位置も自在に移動させることが出来る。」

そう言いながら、戸愚呂・兄は顔の目の位置や内臓の位置を変えて見せる。
そして桑原の刀の柄を手元に寄せる。


「なかなか便利な道具だな。これは幻海の形見か?
しかし、遣った弟子がこのマヌケじゃ...

死んだあいつも浮かばれないな...。」


戸愚呂・兄の言葉に桑原が目を見開く。





「なまえ、大丈夫か?」
蔵馬はそっとなまえの上半身を起き上がらせ、座らせる。

「全身が筋肉痛みたいなものだ。心配はいらない。」
なまえはぐっと奥歯を噛み、痛みに耐える。

「犬神は...?」

「放した。」
なまえの言葉に蔵馬は目を丸くする。


「...他人を使って戦うのは性に合わん。」
なまえが言葉を発した直後、戸愚呂・兄の笑い声が響く。

そちらに目を向ければ、戸愚呂・兄の腕が若かりし頃の幻海に擬態していた。
その姿になまえは目を見張る。


「昔々、若い男と女がいました...」
戸愚呂・兄が語り始める。
この先の結末は、なまえも知っている。
そして話途中に、戸愚呂・兄がなまえに目を向けにやりと笑う。


「っ貴様...!」
なまえの瞳にギラリと怒りが灯る。
しかし、急に視界が暗転する。


「...何も見なくていい、何も聞かなくていい。」
すぐ傍から蔵馬のくぐもった声が聞こえ、トクントクンと心臓の音も聞こえる。


暫くすると、蔵馬の腕から解放される。
リングを見れば、戸愚呂・兄の変形した指が桑原に突き立てられていた。


「桑原?!」

「大丈夫。貫通してません。」
蔵馬が静かになまえに返す。



「人の死を弄びやがって...


てめェは許さねェーーーーーー!!
くたばりやがれァーーーーー!!!」

桑原の怒りが頂点に達し、手から放たれた手裏剣のような霊気が、戸愚呂・兄の体をバラバラに切り裂く。


しかし、戸愚呂・兄はその驚異的な回復力ですぐにまた元通りの姿に戻る。
そして、戸愚呂・兄は指を針のように伸ばし、桑原の四肢を串刺しにし、地面に這いつくばらせる。


「10カウント負けを期待するなよ。お前は首を掻っ切って殺す。」

「...てめぇはぶち殺す。必ずな。」


桑原のその言葉に戸愚呂・兄は嘲笑い、片方の手を大きな鎌のような形に変形させる。



「死ね!!!」


鎌が振り下ろされようとした瞬間、戸愚呂・兄の背後に落ちていた、桑原の刀の柄が勝手に動き出す。


「解剖されんのはてめーだよ。

くたばれ。」


桑原の言葉に答えるかのように、霊剣は戸愚呂・兄をバラバラに切り裂く。


「カウント8!!逆に戸愚呂・兄選手ダウン!!」

「くっ。ちと油断した!
だがまたしても致命的なダメージを加えてはいないぞ!!何度でも元通りになるからな!!」

くくく。と戸愚呂・兄は余裕を見せるが、桑原が霊剣を手にその前に立ちはだかる。


「こいつは本当に便利な道具だぜ。今の俺の気分にピッタリに変形してくれやがった。
弱点がどこかわからねェなら...



全部ぶっ潰したる!!!!」




ドゴ!!!



その音とともに、蠅叩きのように変形した霊剣は、戸愚呂・兄を見る形もなく叩き潰した。


審判が戸愚呂・兄の状況を確認しに近付く。


「...げ。

桑原選手の勝利でーす!!」


 

桑原がリングから降り、こちらに戻ってくる。
そんな桑原に対し、幽助が労いの言葉をかけるが...



バキィ!!!!



桑原は無言で幽助の顔を思い切り殴る。


「...なんでばーさんが死んだこと俺に黙ってた。
俺だけカヤの外か。

ばーさんが殺されたことを俺に言ったら、ビビって逃げ出すとでも思ったのか...ああ?!」


そう言い桑原は幽助の胸倉をつかむ。
蔵馬の呼ぶ声にも、黙ってろと返す。


「俺たちも幽助から直接聞いたわけじゃない。
なんとなく気付いたが...聞かなかった。」

蔵馬のその言葉にようやく桑原は幽助から手を離し、黙っている幽助の顔を見る。


「俺の目の前でばーさんは死んだ。」

コエンマに幻海を頼んで助っ人で来てもらったこと。
自分達だけで闘うしかないと、覚悟を決めたこと。
幽助はポツリポツリと話す。


「まだ...信じられねーんだ。ウソみてーでよ。」

なまえの脳裏に幻海の背中が浮かぶ。
70歳を過ぎた老人とは思えない、シャンと真っ直ぐな背中だった。

「なんか..."死んだ"って言っちまったら―――認めちまったら来ねーような気がして

...言えなかった。ワリィ。」


そう言い幽助はリングへと向かう。




「浦飯!!

      勝てよ。」



桑原の言葉に、まかせとけ。と返す。


そんな幽助の背中が、幻海の背中と重なって見えた。










負けられない fin.2013.10.27



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