ブランとノワール
 





「そのままでいいのか?
むざむざ殺されにきたわけじゃないだろ?」


「じきにかわるさ。貴様を倒すためなら...

何にでもなってやる。」



そう言う蔵馬の掌から無数の花びらが舞いだす。
そして蔵馬の手の動きに合わせ、その花びらは舞う流れを変え、蔵馬を守るように包む。


そしてその一枚が鴉の頬を切り裂く。

「刃のように研ぎ澄まされた花びらの布陣か...なかなか華麗だ。

しかし脆弱だな。」


鴉は構うことなく蔵馬との距離を詰めていく。
その瞬間に花びらが一斉に鴉に刃を剥く。

しかし、爆発音とともにその花びらは無残にも散っていく。


「なに?!」
奴は...花びらに触れてはいなかった!


蔵馬は目の前で起こったことに驚く。
そして、なまえの言葉を思い出す。

(今回も裏御伽戦の時のように、なまえの見解が当たったみたいだな...。)
ふっ、と蔵馬は笑みを浮かべる。



「...どうやら気付いたようだな。
お前の目には私の妖気の本体が見えていない。
すなわち私とお前の妖力の差を表している。もう一度聞く...


そのままの姿でいいのか?」


その言葉とともに鴉が動き出す。
鴉の攻撃を避けた蔵馬だが、突如肩口から爆発音が響く。



「ぐっ...!」

「「蔵馬!!」」


肩から大量の血が噴き出し、火薬の臭いがたちこめる。



「おかしい...もう妖狐に戻ってもいい時間のはずなのに...!」

このままで妖狐に戻らなければ、蔵馬確実に殺されてしまう!!


なまえの目に焦りの色が浮かぶ。



「おしゃべりも飽きた...そろそろ死ぬか?」


最後に鴉が自分が支配しているものを見せてやる。と自らの手に妖気を集中させる。
そしてその手に現れたのは爆弾だった。


「な...」


ドンッ!!と先ほどの爆発音とは比べ物にならない音が響き渡る。


その衝撃波はなまえたちのところまで届く。





「つっ...味な真似を...。」
そう言う鴉の手には白い薔薇が突き刺さっていた。




「きわどかった...南野秀一の肉体じゃ粉々だった...。」

聞こえる声と感じる妖気になまえは胸を撫で下ろす。


「爆弾を支配し、作り出す妖怪か...。支配者級と会えたのは嬉しいが...


お前は殺すぞ。」


金色の瞳が鋭く光る。


銀色の髪に白い肌には、赤い血が一際目立つ。
そんな痛々しい姿になまえは眉をひそめる。



妖狐に戻った後の蔵馬は、鴉の支配する爆弾も見えるようになり、
魔界のオジギ草を召喚し立場は逆転した。


鴉はオジギ草の攻撃を爆弾を駆使して避ける。


「半端な攻撃は逆効果だ...BANG!」

蔵馬が試合前に鴉がしていた拳銃のジェスチャーを真似る。


そしてついに鴉はオジギ草の牙にかかり、一斉に他のオジギ草も鴉に喰らいついていく。
見る見るうちに鴉はオジギ草に包まれていった。






「うむ...思ったよりあっけなかったな。
もう2、3分遊んでもよかったか。」



「よ――っしゃ!すげーぜ蔵馬!!」

「15分どころか5分とかからず倒しちまった!!」
桑原と幽助が蔵馬の圧倒的な強さに声を上げる。



「鴉選手戦闘不能とみなし、蔵馬選手の勝利です!!」


誰もが蔵馬の勝利を確信したその直後、爆発音が響き渡る。



「誰が戦闘不能だと?」


鴉が音もなくリング上に降り立つ。
その姿に司会は慌てて先ほどの判定を取り消す。


「気に入ったよ蔵馬。ますます殺したくなってきた。」


"マスクが外れた。" "やばいな。"
なまえの耳に戸愚呂兄弟の会話が聞こえてくる。

鴉を見ると、髪の色が漆黒から金髪に変わっており
妖気もどんどん強くなっていく。


「口から体内に火気物質を集めてやがる。
構えとけ、巻き添えをくうぞ。」
飛影が忠告を促す。



鴉の妖気がバチバチと音を立て、ダンっと地を蹴り鴉は頭上へ飛ぶ。


(確かにこれはまずい。)
なまえは幽助たちの前に立ち、結界を張る。
その瞬間、鴉が強い光を放ち、けたたましい爆発音が響き渡る。



激しい爆撃が会場の一部を吹き飛ばす。
その強い衝撃を防ぎきれず、余波がなまえたちを襲う。



「大丈夫か?!」

「あぁ。なまえの結界のおかげで目に砂が入ったくらいで済んだ。」

なまえは全員が無事なのを確認し、ほっとした。
しかしそれも束の間、不安が胸をよぎる。


「う?!」

「く、蔵馬!!」


煙が晴れて現れた蔵馬は妖狐の姿から南野秀一の姿へ戻っていた。
それに加え、先ほどの爆撃でかなり負傷している。


蔵馬は全身を走る痛みに顔をしかめる。


「考え事の最中悪いが、お祈りの時間だ。

せめて楽に死ねますように...。」


蔵馬はまだ諦めず、薔薇を武器化しようとするが妖気が足りずそれは叶わなかった。



「もう、私の妖気すら見ることが出来ないだろう。」

「くそっ。」


蔵馬は力強く地を蹴り、素早く鴉との間合いをつめ、
肉弾戦に持ち込む。


「怪我で気が呆けたか。近付くのは自殺行為だ!」


蔵馬は感覚で鴉の見えない爆弾を避ける。

「妖気が見えなきゃどこにいても同じだろう。」
そう言い、素早く間合いをつめ、鴉の懐に手刀を入れる。



「なかなかいい手刀だ...
と、言いたいところだが狙いはこれだろう?

シマネキ草か...二番煎じは通用しない。」
そう言い、鴉はシマネキ草の種を爆破する。


そして突然蔵馬の左足を地面がから出てきた枷のようなものが捕える。



「地下爆弾(マッディボム)。」


ボンっと音が響き蔵馬の足から鮮血が飛び散る。
蔵馬はその衝撃で、跪く。


「蔵馬動くな!囲まれてるぞ!!」
立ち上がろうとする蔵馬を幽助が制する。




「魔界の植物は...呼べない。
植物の武器化も...できない。」

鴉は一歩一歩蔵馬に近付く。


「粉々に吹き飛ばすのは簡単だがそうはしない。」
鴉がそう言うと、小さな爆発が蔵馬の体に起きる。



「っあああ!!」
その強烈な痛みに蔵馬は叫ぶ。



飛び散る鮮血。
立ち込める火薬の臭いと鉄の臭い。
殺せ殺せと巻き起こるコール。


8年前の光景がフラッシュバックする。
カタカタとなまえの手が震える。


途絶えることなく爆発音は響き、蔵馬の体は赤色に染まっていく。


心臓から喉へと痛みが這いあがってくる。
「やめて...。」


なまえの呟きに幽助が気付く。
見ればなまえの顔は蒼白色になっていた。


「おい!なまえ!しっかりしろ!!」
幽助が肩を掴むと小刻みに震えていた。



あの時と同じだ...
じわじわと見世物のように殺されていった。
自分の非力さのせいで見ていることしかできなかった。



...でも、今は違う。勝ちなんてくれてやる。
ルールなんて無視して全員で生きて帰る。


キッと鴉を睨みつける。
鴉もこちらを見ていた。



「くくく...2人いっぺんに殺すのもまた一興...。

来るか?」
にやりと鴉が狂気的な笑みを浮かべる。

その言葉になまえは思いっきり地を蹴りリングに向かう。






「来るな!!!」


あと一歩でリングに足が踏み入れるというところで、蔵馬の制止の声が響く。



「蔵馬っ?!」

「...まあいい。お前さえ手にかけれればそれで満足だ。



死ね!!」


鴉の言葉と同時に蔵馬の体から大量の妖気が放出される。
そして巨大な植物が現れ、その蔓が鴉に向かって勢いよく伸びていく。


ドスっと鈍い音がして、勢いよく伸びた蔓は鴉の心臓に突き刺さる。



「吸...血、植物?ばか、な...呼べるはずが...」

鴉の体はどんどん吸血植物に取りこまれていく。



「蔵馬!」
倒れたまま動かない蔵馬に幽助が呼びかけるも、動く気配がない。


「...呼んだんだ...命と引き換えに...」

なまえは茫然と立ち尽くしながらそう呟く。
そしてガクンと膝の力が抜ける。



なぜ止まった
なぜ行かなかった
なぜ守らなかった


ガンガンと頭に痛みが走る。
胃がキリキリと痛み、吐き気が襲う。

この場所でまた...


どんどん思考が停止していく。


「くらま...。」
無意識にその名をつぶやく。





「なまえ。」
その声に顔を上げれば、幽助に支えられリングを降りてきた蔵馬の姿があった。


思わず目を大きく見開く。


「生きてるよ。」
負けちゃったけど。

そう言い困った顔をしながらにこりと蔵馬は笑う。


なまえは大きく息を吐きながら目を瞑り上を仰ぐ。
緊張していた筋肉が解け、全身の力が抜けていった。








ブランとノワール fin.2013.9.4



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