望まぬノスタルジー
 




今日は一層会場が殺気だって騒がしい。
まだこの重い扉を開けていないのに会場が熱気立っているのがわかる。



「幽助。幻海師範の...代わりの6人目はどうなっているんだ?」
暗闇の中、蔵馬の静かな声が響く。


「実はもう先に来てる。」
幽助も同じく静かに返す。


「なんだ、やっぱバーサンこれねーのか。」
裏御伽戦で全部力使いきっちまったってわけか。

桑原の通る声が、さらにこの暗闇に響く。


「やれやれ。めでたいヤローだ。」
そんな桑原をいつもの調子であしらう飛影に、桑原はいつものように反応する。



そんな桑原と飛影の様子になまえは少し安堵する。


反響する観客の声と暗闇。
扉を隔てても感じる戸愚呂たちの気配。


8年経った今でも鮮明に思い出す感覚。
以前は隣りに立ってくれていた兄の気配が、今は真正面から感じる。


正直、まだそのことを受け入れられなかった。
幻海がもう、この世にいないことも。


気持ちを落ち着かせようと、深呼吸しようとしたとき
ぽん、と両肩に重みを感じる。


「帰ろう。みんなで。」
聞き慣れた声が頭上から聞こえる。


「ああ。」
その言葉とともに、扉が開かれる。




わっと殺気が一斉にこちらに向くのがわかる。
そして浴びせられる罵声と怒号に耳が痛くなる。

前を見据えればやはり戸愚呂と肩を並べて兄がいる。




「なんだ?!どっちのチームも5人しかいねーじゃねーか!!」

「みなさん、お静かにお願いしまーす!
大会ルールによりますと、決勝戦は1対1で戦うこと!
6戦行い、4勝したチームの勝利となります!

どちらのチームも戦いによって死人が出ていない以上、6人目を出してください!」

司会のアナウンスが響く。



「まさかあの野郎、逃げたんじゃねーだろな。」
先にいるはずの6人目がいないことに、幽助はそうごちる。



対して戸愚呂チームは6人目が現れるが、
それは予想外にも戸愚呂チームのオーナーの左京だった。
観客は左京が戦うことに驚くが、左京はそれを否定する。


「私は一番見やすい場所でかれらの死を見届けたいだけだ。

大将の私まで回ってくる可能性は...ゼロだ。」





「それを聞いて安心した。」



背後から聞き慣れた声が聞こえ、後ろを振り返ると
そこに現れたのは人間界ヴァージョンのコエンマだった。


「本来我々霊界を統治する者は直接下界に関われん。
しかし、場合が場合だけにワシも参加せざるを得んだろう。

もし万が一、ワシに戦う機会が回ってきたら...」


そう言いコエンマはバッとマントを翻す。


そしてその背中には、努と力が書かれた脱出用ロケットが装着されていた。


それに桑原は思わずずっこける。
いつもながらにマイペースな閻魔大王の息子になまえは深いため息がこぼれる。

こんな人に幻海の霊体を任せて大丈夫なのかと。





と、そこで司会から浦飯チームの6人目は認められないとのアナウンスが入る。
幻海がいる以上は補欠との交代は認められないと。




「...幻海は...」
幽助がその言葉の続きを言いよどんでいると、左京がそれでも構わないと許可を出す。



「それでは決勝戦、第1試合を始めます!!
両チーム、先鋒前へ!!」



黒髪の男、鴉が蔵馬に視線を向けながら
自らのこめかみに指をあて、「BANG!」と拳銃で頭を撃ち抜くジェスチャーをする。


「俺が行く。」

蔵馬と鴉が真正面から相対する。




「おい蔵馬。鈴木に貰ったあの薬、使う気か?」
桑原が蔵馬に問う。


「ああ。2分ほど前に飲んだ。」


蔵馬の言葉に桑原は驚く。
なんの保証もない、もしかしたら毒薬かもしれないものを飲むなんて...


「何度か試してみたが、液体で使うと効き目が現れるまで少々時間がかかるんだ。」
大丈夫、なまえが保証人だよ。

と、蔵馬がなまえに目配せする。


桑原や幽助たちがなまえに視線を向ける。
するとなまえは両手首を見えるように前に差し出す。



「妖気が漏れないように結界を張ってただけなのにな。
どうやら昔の蔵馬はかなり血気盛んだったらしい。」

そいう言うなまえの手首には、なにやら縄で縛られたような痕が残っている。
よく見ると顔にも薄ら傷の跡が残っている。


お前ら決勝前になにやってんだよ。と桑原が呆れたようにつっこむ。


「...鈴木の言っていたことは本当だった。
一口飲めば15分くらいは元の姿に戻れる。

奴を倒すには十分な時間だ。」


確かに妖狐に戻れば勝算はある。
問題は戻るまでにどうやって時間を稼ぐか...



「両者前へ!!」

司会の言葉で蔵馬はリングに上がる。
会場は相変わらず浦飯チームへの罵倒・罵声の嵐だったが、
その中で、一際通る声が響く。


「ちゃんと浦飯チームの応援もいるわよ―――!!
蔵馬くん頑張って――――!!!!」
声の出所は言わずもがな、螢子たちのものだった。


今はコエンマがこちら側にいるため、彼女たちを守る者はいない。
周りはアンチ浦飯チームしかいない中、応援に来る螢子たちになまえは感心する。




そして蔵馬と鴉の戦いが始まる。








望まぬノスタルジー fin.2013.8.31



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