ない答えを求める
 




第4戦目は、誰が見てもなまえの完勝だった。

しかし、戻ってきたその顔は何処と無く浮かないものだった。
そんななまえの様子を察して桑原君がどうした。となまえに問うが、少し考えたのち


「さっきついた右手が少し痛んで...。」
と答える。


すると桑原君は、あんまり無茶すんなよ。と労わる。

(なんで...。という呟きは俺の耳にはバッチリ聞こえていたのだけども)


しかし、そんな彼は死々若丸の羽衣で何処かに飛ばされてしまう。


そして覆面選手不在の中、ついに覆面選手の目が出る。

最初の時点で、覆面と浦飯の目が出れば飛影が戦うと宣言していたので、飛影はリングに上がろうとする。

(妖狐の姿に戻る煙のことについて、死々若丸に聞きたいことがあったので自分が戦いたかったのだが。)


しかし、そこに丁度覆面選手が現れる。
だが、以前の様な力強い霊気は感じられない。

飛影も感じ取ったらしく、覆面選手にお前は誰だと問う。


すると覆面選手は

「それはもう幽助に渡してきた。」
と答える。



なまえを見ると、視線を落とし、どこか憂いを帯びた顔をしていた。

(ここ最近そんな表情ばかり見ている気がする)



覆面選手と死々若丸の戦いが始まり、死々若丸がその覆面を破り取る。


そこに出てきたのは、予想通り老婆...もとい幻海師範だった。


死々若丸、会場の妖怪たちには以前の若い女と目の前にいる老婆が同一人物であることがリンクされないらしく、

俺たちのチームが不正を働いている、と抗議を始める。


しかし、そこに出てきた戸愚呂の一声で場は収まり
死々若丸は死々若丸で、目の前の老婆が幻海であることがわかると、その目の色を変える。

そして再び戦いが始まる。


なまえを見やると、目の前で繰り広げられる戦いを見ながらも
その瞳はどこか遠くを映していた。


その姿に先日見た男の姿が重なる。


程なくして、勝負は幻海師範のものとなり、丁度桑原君も帰還する。


相手チームはいよいよ最後の一人となる。
サイコロの出た目は再び桑原君。

しかし戦闘開始早々、またもや何処かに飛ばされる。


相手チームの怨爺曰く、闇アイテムは全て自分の手作りだと言う。
なまえの見解はどうやらビンゴだったようだ。

そして次の目で覆面が出たので幻海師範がリングに立つ。


そして怨爺の正体は鈴木という名前のピエロだった。
(何やら修飾語がついていたが、忘れた)



幻海師範は霊気を使わずに、鈴木をボコボコにする。

リング上には骨の軋む音が響く。
なまえを見れば、俯いていた。


原型をとどめていない鈴木の顔を見て幻海師範が
ツラを拝むのを忘れていた。
と言う頃には、なまえの顔は最早青白くなっていた。


なまえが毎日青痣を作っていた理由がよくわかった。



そして準決勝を勝ち上がり、いよいよ次は決勝を迎えることになった。

試合が終わるとなまえは幻海師範と何処かに去って行った。
その途中、師範がこちらを振り向き視線が合わさる。











師範から前もって聞いていた。
幽助に霊光波動を継承したら、自分はいなくなると。

以前の力強さがなくなった覆面の師範を見て、もうその時なのだと悟った。




名を上げたいと言って死んでいった闇法師。
何故死を選んだのか、到底理解はできなかった。


自分は今まで生きるために戦ってきた。
そしてふと思った。



"何故生きたいのか"と。



師範の最期を見届けるため?
皆を守るため?
蔵馬の傍にいるため?



師範の最期はきっと自分がいなくても大丈夫だ。
幽助や桑原達がいる。


皆を守るため...
自分に守られないといけないほど、この人たちは弱くない。


蔵馬の傍には、自分はいられない。
蔵馬が望むのは自分じゃないから。




出た結論は、ここから皆を帰すために戦い、勝つために生きること。



意識を試合に戻せば、ピエロが師範に一方的にぼこぼこにされている最中だった。

骨の軋む音や打撃音が響く。


師範の拳がどれだけ痛いかはよく知っている。
その痛みが今は懐かしい。



もうそれを感じることはできなくなる。
そう思うと眉間にツンとした痛みを覚える。


ツラを拝むのを忘れた。という師範の言葉に顔を上げれば、
ピエロの顔はもう原型をとどめていなかった。

これにはさすがにピエロが哀れに思えた。



準決勝を勝ち上がり、残るは決勝戦。
試合が終わると、師範に話しがあると呼びだされる。














「あたしは今日、恐らく死ぬ。」
闘技場から少し離れた山手に着き、師範が開口一番に言ったのがそれだった。


「後悔はしとらんよ。この大会にゲストとして呼ばれた時から決めていた。

なまえ、何があってもお前は自分のために戦いな。」

冷たい風が頬を掠める。



「なまえ、この8年間お前に霊光波動拳を教えたのも、一緒に暮らしたのも、
あたしを守らせるためでも墓を造らせるためでもないよ。」


俺は何も言わずに師範の言葉に耳を傾ける。
一字一句も聞き洩らさないように。



「なぁなまえ。死ぬことは一瞬、その反面、生きることは長く、それでいて時に苦しく難しい。

生きることに目的を見いだせず、悩み、どうしようもなくなって死を選ぶ者もいる。」


生きる目的...この大会が無事に終われば、自分もなくなる。



「でもな、どんな人間も妖怪も、自分の存在意義や生きる目的を見出すことよりももっと難しいことを既に成し遂げてるんだよ。」


師範の力強い瞳と目が合う。
霊力も体力も衰えてしまったはずなのに、瞳から放たれる眼光は衰えることはない。






「生まれることだよ。」








師範の言葉に思わず目を見開く。




「こればかりは、どう足掻いたって、望んだって無理だからな。

別に生きる目的がなくともいい。
誰かに必要とされなくともいい。


せっかく一番難しい"生まれる"ことをしたんだ。
心臓が自然と止まるまで、自分のためにとりあえず生きてみな。

そのうちいつか、何十年とかかって何か見つかるさ。」

お前さんも知っての通り、生きていれば辛いことはごまんとある。
でも諦めずにそれと戦っていれば、いつか息をすることさえも幸せに感じる時が来る。



そう言いながら師範は、よっこらせ。と立ち上がる。



「...だったら、なんで師範は死ぬんですか。」


「...どうしても、命をかけてでもヤツの目を覚まさせたくてな。」
そう安々と死ぬつもりはないさ。


後ろ背に師範は話す。




「ただ...一つ心残りがあるとすれば、お前の白無垢姿を見れなかったことだな。」

優しい笑みを浮かべながら、師範は振り返る。




「忘れるなよ。こうしてお前の幸せを願う婆さんがいることをな。」

その言葉を残し、師範は山の中へ消えていった。





頭の中はもうごちゃごちゃだった。
深いため息を吐きながら、草の上に仰向けに寝転がる。




生きたいと願っていたのに死んだ妹。
名を上げるために死んだ妖怪。
他人の為に死にゆく老婆。




何故今頃になってこんなことを考えてるんだろう。
生きることについてなんて...




ただ言われるがままに戦って、その命を奪ってきた。
何度罪を犯してきたかなんてわからないほどに。

物事の善し悪しなんて考えもせずに生きてきた。
ただ言われるがままに...



なんて他人任せな生き方をしてきたのか。
今日までそんなことにも気付かなかったなんて。




再び大きなため息を吐く。
カサリ、と草が踏まれる音がする。

あぁ、どうしてこの人はいつも自分が生き詰まったときに現れるんだろう...




「人は一人じゃ生きていけない...っていうのはあながち嘘じゃないと思う。」
そう言いながら蔵馬は隣りに座る。


「時に自分のために生きて、そして自分の存在意義を見出すために他のモノのために生きたりもする。

ずっと自分のためだけに生きていくことも、ずっと他人のためだけに生きていくことも、どうやらできないようになっているらしい。」

それが人間と妖怪の違いだね。と蔵馬は言葉を紡ぐ。



「君は今まで他人のためだけに生きてきて、今こうやって壁にぶち当たった。

でもね、そんなに難しく考えなくても大丈夫だよ。」
そのうち生きることに慣れてくるから。


そう言って、蔵馬は立ち上がり、寝転んでいる俺の腕を引っ張って立たせて、そのまま腕を掴んだまま足を進める。



「誰でも初めてのことに不安を感じるし、不慣れで苦しくなったり、失敗だってする。

"生きること"だって初めての体験なんだ。それと同じだよ。」



蔵馬の言葉がしんしんと、頭に入ってくる。


「伊達に千年生きてないな。」
と言うと、人間歴はまだ15年だけどね。と言葉が返ってきた。


「じゃあ、俺の方が少し先輩だな。」
と言うと、目を丸くして振り返る。



「18年は生きてるよ。」
そう言うと、幼児たい...童顔だなぁと呟かれた。









ない答えを求める fin.2013.8.25



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