手に残るのは虚無
 




蔵馬の妖気がどんどん小さくなっていき、あるところでその妖気が完全に消える。


「蔵馬!!」

リングの外からなまえは叫ぶ。



瞬間、ぞくりと足元から背中にかけて冷たい何かが這うような感覚に襲われる。

(この妖気は...蔵馬?!)



「な...!」

なまえだけでなく、桑原と飛影もそれを感じる。



リング上は未だに逆玉手箱の煙のせいで何が起こっているのか見ることはできない。



しかし、声は聞こえる。
だがそれは、なまえの知っている蔵馬の声ではなかった。



「...さぁ、おしおきの時間だ。俺を怒らせた罪は重い!」

その言葉とともに、ひぃーーーー!という情けない声が聞こえる。



「し、信じられねぇ。一体このどぎつい妖気はどっちのもんなんだ?!」



「フン。蔵馬の妖気に決まっているだろう。
たぶんあのマヌケが呼びだしてしまったんだ。
南野秀一と一つになる前の蔵馬をな。」

まさかこれほどの妖力だったとはな。一度手合わせ願いたいもんだぜ。


と、飛影はなおも好戦的だった。



蔵馬と裏浦島が煙の中で話している。
と言っても、裏浦島にとっては命を賭けた話し合いである。


裏浦島が生き延びるために真実を話そうとした時、リングの外から結界を突き破り刀が飛び込んでくる。

そしてそのまま刀は真っ直ぐに裏浦島の首に刺さる。

結界が破れたことで、煙が晴れていく。




長い銀色の髪に、髪色と同じ色をした大きな獣耳としっぽ、そしてその身を白装束で纏った妖狐が佇んでいた。


妖狐の金色の瞳となまえの瞳が交じ合う。
暫くすると、妖狐の姿は南野秀一の姿へと変わり、今度は翡翠色の瞳と交じ合う。


「ああ!!く、蔵馬選手?!
なんと、銀髪の妖怪は蔵馬選手でした!!」



蔵馬がリングから降り、こちらに戻ってくる。





「蔵馬、怪我は?」

「かすり傷だ。問題ない。それよりも、そろそろ君の出番のようだよ。」


蔵馬にそう言われ、死々若丸の振ったサイコロを見ると
なまえと闇法師の名が出ていた。



「両者前へ!!」

司会のコールになまえはリングへ上がる。
相手の闇法師は、法師と名前が付いているだけあって、僧侶のような格好をしていた。



「第4戦、なまえ選手VS闇法師選手、始め!!」



「お前がかの有名な"血の瞳"か...。
死々若、悪く思うなよ。俺がこいつを殺して名を上げてやるぜ。」


くくく、と闇法師は喉元で笑う。
そんな闇法師を死々若丸は静かに見る。



(俺を殺したところで、何も得はしないのに...。)
逆に別の者に命を狙われるだけの悪循環だろうな。

となまえは心の中で思い、ため息を吐く。



「ふん。今のうちに仕掛けておけばよかったものを...。
こんなチャンス、滅多にないぜ。」
そう言いながら闇法師は小槌を取り出す。


「阿呆が。時間をやってるのはこっちだ。
さっさとその闇アイテムとやらを使って強化しろ。

そろそろ俺も、"本気で"戦いたいんだ。」



なまえの言葉に闇法師の眉がピクリと動く。

「今の言葉、必ず後悔することになるぞ!!」



闇法師は手に持っていた小槌を自分自身に打ちつけていく。
すると、見る見るうちに闇法師のがたいは大きくなり、その筋肉で上半身の服が破けていく。



「な...!これじゃあ体格差が幼児と大人じゃねぇか!!」

大丈夫なのかよ?!と桑原が心配する。



「そう言えば貴様はあの時死んでいたから知らないのか。
前回の試合であいつは生身の体で相手チームを殴り殺したくらいだ。」

霊気を使える今なら、あれくらいの輩を殺すなんて造作もないだろう。

と飛影が言う。


誰も死んでねェよ!!といつもの調子で桑原が叫ぶ。




蔵馬は飛影の言葉で、なまえの右拳が酷く痛んでいたことに合点がいく。

そして思い起こせば初戦もコエンマたちが巻き込まれそうになり、キレて相手を倒し
2回戦以降は霊気が使えない状態で戦ったりと、確かに本気で戦えてはいなかったなと。


なまえを見れば足首を回したりして、軽く準備運動をしている。





なまえは闇法師を見上げ、目を細める。

8年前のあの時も準決勝で、こんな感じに戸愚呂を見上げていた...


「お前は今日ここで俺の踏み台となって死ぬのだ!!」

闇法師はさらに小槌を打ち付け、その身に妖気の鎧を身に纏う。
そして、なまえに向けて思いっきり拳を振り下ろす。


ズガン!!!


破壊音とともにリングに穴が開き、土煙が舞う。


なまえは難なく避けていたが、そこに再び拳が飛んでくる。

その拳を受け止めるわけでもなく、闇法師の突っ込んできた腕を土台にして片手をつき、
その勢いを利用して闇法師の背後に宙返りする。


そしてそのまま霊丸を背中目掛けて打てば、闇法師は勢いよくフェンスへ激突していく。



「闇法師選手、場外です!カウントを取ります!!」

1,2,3...


カウントが6まで進んだところで、闇法師はガラガラと音を立てながら立ち上がり
一瞬、鋭く眼光を光らせ、口から妖気の玉を放つ。


なまえは避けずに結界を張り、その玉を防ぐ。


(やはり一筋縄ではいかないか...。)
そんなことを考えていると、真正面から闇法師が拳を入れてくる。

しかし、その拳がなまえに届くことはなく、バチバチという音を立てる。



「無駄だ。お前の妖気ではこの結界は破れない。」
負けを認めろ。

闇法師にそう諭すが、引く気配はない。


「くくくく...それくらいわかってるさ。俺じゃアンタを殺れないこともな。

それでもこうして戦っている間に俺の名は刻まれていく!!」
血の瞳と暗黒武術会で殺り合った闇法師だとな!!

そう言い闇法師は結界を突き破ろうと、一層拳に力をいれる。

しかし、結界は闇法師を拒み、その身を焼きつくしていく。
そしてついに、闇法師は断末魔を上げて塵となり消えていった。


「なんで…。」
なまえは散りゆく闇法師の身体を見つめながらそうつぶやく。



「勝者なまえ選手!!」



司会のマイク音がなまえの頭の中で虚しく響いた。








手に残るのは虚無 fin.2013.8.23



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