御伽草子
 





「準決勝第1試合選手入場しまぁーす!!」

司会の言葉とともに、重い扉が音を立てながら開く。


そして両チームはリング中央へ上がる。



「残りの2人はどうした、怖気ついたか?」

ふふふ、と相手チームの男が嘲るように笑う。



「お前らじゃ役不足だとよ。」

桑原の言葉に相手チームから笑みが消える。
そして、審判から対戦方法について催促が入る。


「ごたくはいい、さっさと始めるぞ。俺で最後だ。1人で十分だぜ。」

最近の俺はご機嫌ななめだ。ストレスがたまってるんでな。

飛影はそう言いながらにやりと不敵な笑みを浮かべる。



「ふふふ、まぁそういきり立つな。これで対戦方法を決めないか?」

そう言い死々若丸が手にしたのは、それぞれの名前が書かれた2つのサイコロだった。



「ヒマな奴らだ。勝手にしろ。
幽助と覆面の目が出たら俺が代わりにやってやる。」


よかろう。不戦勝で勝っても名は上がらないからな。

死々若丸はそう言いながらサイコロを振う。
出た目は、飛影と魔金太郎だった。



しかし、試合早々決着がつき
勝者は言うまでもなく飛影だった。

そして次の目で浦飯チームは再び飛影の名前が出る。


「第2戦は飛影選手VS黒桃太郎選手!!」


なまえが相手チームを観察すると、何やら話している。



「...飛影が黒龍波を撃てないのを察しているな。」

突然のなまえの言葉に桑原はえ?と声を出す。


「"やつの炎殺拳をお前の体が記憶した時、お前の勝ちだ。"
死々若丸とかいう奴が頭だと思っていたが、どうやらあの爺さんが何か仕込んでるみたいだな。」


黒龍波が撃てないってどういうことだよ?と桑原が問う。



「魔界の獄炎の化身である黒龍は、瘴気を好みその中でしか存在できない。
それを人間界に呼びだすには莫大な妖気をエサにおびき出すしかない。

是流戦では飛影がベストの状態でも妖気が足りず、右手を食われかけた。」

今の飛影の妖気は六分から七分の状態、黒龍を呼びたくても呼べない。


蔵馬の言葉に桑原は飛影の妖気がまだ六分であることに驚愕する。




黒桃太郎は試合早々自らの指を飛影の剣で切り落とし、"痛みを記憶した"と言う。

そして、闇アイテム・奇美団子と称する食べ物を口にし、その姿を変える。



飛影が刀で攻撃するが、言葉の通り痛みを記憶したらしく、斬撃が効かない。
その後も邪王炎殺拳を受けるも、再び奇美団子を食し姿かたちを変える。



やはり準決勝戦、そう簡単には勝てないか...

なまえは飛影と黒桃太郎の試合を見ながら考えていると、ふと視線を感じた。


(戸愚呂...!)

視線の先に目を向ければ、観客に混じりこちらを見ている戸愚呂兄弟、黒づくめの男に鎧を纏った男と目があった。


戸愚呂・弟はにやりと口元に笑みを浮かべ

「飯はちゃんと食ってるみたいだな。」
と、なまえに話しかける。


「こんなところから聞こえるのか?」
黒づくめの男が戸愚呂・弟に問う。


「聞こえるさ。なんせあいつは"犬"だからな。」
イヒヒ、と戸愚呂・弟の代わりに兄が答える。


戸愚呂・兄の言葉に、なまえの目は鋭くなる。
そんななまえの様子を見て、戸愚呂・兄は

ほらな。と黒づくめの男に視線を向ける。



観客からどよめきが発せられ、なまえが試合に視線を戻すと、飛影が炎の剣で相手を倒した瞬間だった。


試合が終わった飛影は、服を破り適当に肩の傷口に巻く。
そんな飛影を制し、なまえは傷の手当てを行う。


「いらん世話だ。貴様は人の心配をしている場合じゃないだろ。」
ガシリと飛影は手当てをするなまえの腕を掴む。


「...この前の借りだよ。部屋まで運んでくれたんだろう?」
そう言いながら、意外にも深い傷になまえは少し顔をしかめる。


なまえの言葉にふんっと鼻をならし、
試合で霊気が足りなくて死んでも知らんからな。と飛影はぷいっと顔をそむける。

そんな飛影を見ながら、なまえは兄の事を思い出す。


あの人もこんな風に寡黙で、優しさを捻くれた言葉で隠していたなと。






なまえが飛影の治療をしているうちに、死々若丸がサイコロを振っており、蔵馬と裏浦島の目が出る。






「第3戦、蔵馬選手VS裏浦島選手!!始め!!」

審判の開始宣言が出されると同時に、蔵馬と裏浦島はそれぞれの武器を取り出す。


両者の武器は似通っており、お互い一歩も引かない鞭の攻防戦になる。
そのうち、蔵馬は裏浦島が本気を出していないことに気づき、疑問を感じる。


すると、裏浦島から"俺を殺してくれ"と頼まれる。
話によれば、自分たちは御伽話の邪念から生まれた存在であり、裏浦島は死々若丸達の考え方についていけなくなったと言う。


自分が大勢を崩したらひと思いにやってくれと蔵馬に提案する。


蔵馬は裏浦島の言葉に、承諾するが殺しはしないと返事をする。
存在理由が変わっても生きていけると。



蔵馬の言葉に裏浦島は目に涙を滲ませる。
そして、言葉通り体制を崩す。


それを狙い、蔵馬が殺さないように攻撃をしかける。




が、鞭の先に裏浦島はいなかった。
そして、釣り糸が蔵馬の体を刻む。



「ぐ...っ!!」
衝撃で蔵馬は地面に叩きつけられる。



「くくく、フェハハハハ!!!

こうも簡単に信じるとはなぁ――――!!
あんたの人の良さは致命的だぜボケナスがよォオオオ!!!」


先ほどの気の弱い優しそうな男と打って変わり、下品な表情を浮かべながら、蔵馬を嘲笑う。



そして裏浦島は容赦なく、蔵馬に攻撃をしかける。


蔵馬は痛む傷口に構わず、その攻撃をかわす。
そして、リングに結界の糸が張られていることに気づく。



「俺は俺より顔が良くて、背が高い奴が大嫌いでなぁ。
嬲り殺すときはいつもこれを使う。」

そう言い裏浦島が取りだしたのは、逆玉手箱という、対象者を幼児化させる道具だった。



「てめぇは胎児にまで戻してやるぜ!!
グチャミソに潰しくさってくれるァーーーー!!!」


その言葉とともにリング上は白い煙に包まれる。




「蔵馬...!!」

蔵馬の妖気がどんどん小さくなっていくのを、ただリングの外から感じることしかできなかった。







御伽草子 fin 2013.8.18



前へ 次へ

[ 52/88 ]

[back]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -