束の間の理想郷
 





少し乱れた襟元を直しながらなまえは蔵馬たちの元へと戻る。



「最初からああすれば良かったものを...。」

奴の茶番に付き合うこともなかった。と飛影が呟く。




「少し、試したいことがあったからな。

...桑原、お前の姉さんたちを巻き込んですまなかった。」



予想外の謝罪に桑原は面喰う。




「い、いや。あんな馬鹿騒ぎして俺たちの関係者だって言ってるあいつらも悪いしよ...。

それに結局おめぇさんが守ってくれたしな。」

むしろありがとよ。となまえに例を言う。





「中堅、前へ!!」


司会の言葉に会場が一気に歓声に沸く。


「是流だ!!是流が出てきたぜーーー!!」




「...やつが大将じゃないのか。」

蔵馬が意外だというように言葉を発する。


「じゃ、あとの2人はもっと強いのかよ?!」




「いや...奴があの中で一番強いのは間違いない。

ふざけた奴らのことだ。順番もクジか何かできめたのだろう。」


飛影の瞳は歯ごたえのある敵を前にして、一層鋭く光る。



飛影VS是流の戦いが始まった。












「なまえ、試合中何かあったのか?」

蔵馬がなまえに問う。



「声が聞こえた。」


声?と蔵馬が眉をひそめる。



「決勝戦で待っていると...。」


「戸愚呂か?」


蔵馬の言葉に少し考える。




「いや、男の声に間違いないが戸愚呂ではなかった。」

どこかで聞いたことのあるような声...。





そんなことを考えているうちに飛影の体が是流の炎の妖気に包まれる。


是流の圧勝かと思われた。が







「俺と当たったのが運のつきだ。


喜べ!!貴様が人間界での邪王炎殺拳の犠牲者一号だ!!」



その言葉とともに飛影の邪眼が怪しく光り、右腕が黒い炎で纏われる。





「邪王炎殺拳...!!まさかあれは人間界では使えない、正真正銘魔界の拳のはず...!!」



(あの邪眼がそれを可能にしているのか...)

今まで見たことがない黒炎になまえは思わず見入ってしまう。




「右腕だけで十分だな...



くらえ!!炎殺黒龍波!!!」





飛影の言葉とともに黒い龍が右腕から飛び出し、是流に襲いかかる。





勝負は一瞬。

是流はこの世に影だけ残して消えてしまった。




「勝者、飛影選手!!」





桑原は飛影の勝利に喜ぶも、いつ敵に回ってもおかしくない飛影に恐怖を覚える。




そんな桑原を見やり、飛影は大会が終わるまではこっち側にいてやると、不敵な笑みを浮かべる。





「それになまえ...この黒龍波をもって貴様と本気で戦うまではな。」

貴様、いくつかまだ能力を隠し持っているだろう。


と鋭く飛影の瞳がなまえを射抜く。





なまえはポケットに突っこんでいる飛影の右腕に視線を移す。


「あまり無茶をするな。取り返しのつかないこともあるんだぞ。」



その言葉に飛影はフン。とあしらう。


蔵馬はそんな様子を見て、やれやれと呆れたような表情を浮かべる。







是流が一瞬で倒されたことで、怖気づいた向こう側のチームの2人が逃げ出す。


が、奇妙な妖気と酒気を纏った男に瞬殺される。






「遊びは危ねーからおもしろいのによぉ。しらけた真似しやがって馬鹿どもがよぉ。」


酎と呼ばれる男は、どうやらチームの誰かが死んだときの補欠員だったらしい。




「よっと...すげー酒の臭いだな。目がすっかり覚めちまったぜ。」


男の奇妙な妖気に気づき、幽助がようやく目を覚ます。






バトルマニア同士の熱い戦いが始まろうとしていた。







束の間の理想郷 fin.2013.8.4



前へ 次へ

[ 42/88 ]

[back]
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -