ザ・クレイジー
 





「安心しろ、使い魔はご主人様が死んだと同時に逃げ去った。」


あれでは殺してくれと言ってるようなもんだ。


飛影からそのことを聞き、蔵馬の表情が柔らかくなる。




桑原は状況が掴めず何があったかと問うが

「「あとでね(な)。」」


と2人に声を揃えて返されてしまう。



なまえは、もちろんバッチリ呂屠と蔵馬の会話は聞こえていた。





「浦飯チーム、次鋒前へ!」


見ると既にあちらのチームは次の選手がリングの上に立っていた。



そしてなまえに向かって手を差し出す。





「なまえ。是非とも貴方と戦いたい。」

いかにも洋風な貴公子、といった風貌の男は艶のある笑みをなまえに向ける。




「おーっと、ここでルイ選手から指名が入りましたー!浦飯チーム、どうしますか?!」



それに答えることもなく、トンっとリングになまえは上がる。



「おいおい、あのルイって野郎は戦う気あんのか?あんなキラキラした服着てよ。」

それにあの顔いけ好かん、と桑原は相手選手を睨みつける。



「次鋒 なまえ選手VSルイ選手 はじめ!!」



「きゃーーー!ルイ様ーーーー!!!」

試合開始とともに黄色い声援に会場は包まれる。


その声に対しルイはにこやかに手を振り返す。




「うぉらああぁああ!!なまえーーーー!!やったれーーーー!!!」

神聖なリングの上をなんと心得とるんじゃーーーー!!


桑原は誰よりも殺気だっていた。



「相手をどう思う?」

飛影が蔵馬に問う。


「...わからないな。この演出も作戦のうちなのか...。」




なまえは微動だにせず、相手の言動を分析する。

(武器は...あの腰に差さっている拳銃か...。ただのお飾りということもありえるな。)



「まるで夢のようですよ。」

ルイがなまえに向けて言葉を投げる。


「実はずっと昔から貴方のファンなんですよ。
あぁ...まさかこんな近くであなたを拝める日が来るなんて...。」

成長して一層美しさに磨きがかかっている...

と、恍惚の表情を浮かべる。



それにはさすがになまえも顔をしかめる。



「貴方のことなら何でも知ってますよ。
12年前と4ヶ月前、彗星のごとくこの暗黒武術会に現れ、大会始まって以来最年少で見事優勝。

その翌年の夏、大蛇に苦戦するも見事優勝――――」



と、これまでのなまえの大会での履歴をペラペラと喋り出す。


「そして8年前の冬...貴方を見た最後の大会。
ここで戸愚呂弟に負けてしまい、消息を絶つ...。」

とてもショックでした...と眉間に眉を寄せ悲しそうな顔をする。




「...それで、お前の望みはなんだ?」


今まで黙っていたなまえが口を開く。



それに対し、あぁ...なんて美しい声...とまたも恍惚の表情を浮かべる。



「私の望みは一つ...貴方の全てを知ることですよ。」

貴方の赤色はその美しさで私を狂わせてしまうのだから...


と、ルイはうっとりした表情でなまえを見つめ、腰に携えていた拳銃を取り出す。



「私のこの狂った愛(クレイジー・ラブ)は貴方の心を撃ち抜くためのもの...。

さぁ、始めましょう。貴方と私のワルツを...!」


ドンっドンっ!!


そういうとルイは拳銃をなまえに向けて乱射する。



それをなまえはリングの上を疾走して避ける。



「おいおい撃ち抜くなんて生易しいもんじゃねーじゃねーか!
あんなもん当たったら体が粉々になっちまう!!」


「似非貴公子が戯言ほざいている間にさっさと殺ってしまえばよかったものを...。」

忌々しそうに飛影は顔をしかめる。




銃を避けながらなまえはルイに携えられているもう一つの拳銃に目を向ける。


(恐らく今奴が打っているのは、当たれば思考回路を封じられる、一種の催眠効果のある弾...。

厄介なのはもう一つの銃の方か...。)



「一方的なルイ選手の銃撃!リング上は弾が飛び交い危険なので、不本意ながら退避させていただいて実況いたします!!」



無数の弾丸を避け、なまえはトンっと蔵馬たちの近くのリング上に降り立つ。



「どうして霊力を使わないんだ?」

蔵馬がなまえに問う。


「それは...。!!」

と、なまえが蔵馬に答えようとした瞬間、今まで感じられなかった禍々しい妖気を感じる。


そして


ドン!!!


という大砲を撃ったかのような音が響き、なまえが居た場所がえぐられる。



「貴方は私だけを見ていればいいのですよ...。」

そう言うルイの手にはもう一つの拳銃が構えられていた。


(やはり、もう一つの銃が本命といったところか...。)

再び最初に使用していた銃による乱射が始まる。



「あいつ、マジで狂ってやがる...。」

もう少しで巻き添え食らうところだったぜ。と桑原は冷や汗を流す。



蔵馬は先ほどえぐられた場所を見やる。

(あの衝撃ならもっとこちら側にえぐれていてもいいはず...)


そして再びなまえを見る。



「ふーぅ。さすがに疲れましたね。」

こんな乱射したのは初めてですよ。と懐のハンカチで額の汗をふく。



「―――――。」


「...!!」



微かに聞こえた声になまえは観客席を見る。


今の声...!


しかし、声がした場所を見てもそれらしき人物は見当たらない。




そしてまた禍々しい妖気が立ち込める。



「だから...私だけを見ていればいいと言っているでしょう!!」



そう言い、観客席に向けて銃を放つ。

その先にはコエンマや螢子の姿が。



「っあの野郎!!!」

逃げろ姉ちゃん!!と桑原が叫ぶ。



「これはお仕置きですよ。二度もよそ見をするから...。」


ふふふふ、とルイは不気味な笑みを浮かべる。

だがなまえは微動だにしない。



コエンマが危機を感じ、結界を張ろうとした瞬間、勢いよく放たれた弾は観客席に到達する前に何かに弾かれる。



「なに?!」

そのことにルイは動揺する。



「お前...俺のことをよく知っていると言ったな...。」

なまえの言葉にルイは視線をなまえに移す。


「俺を怒らせるツボもよく心得ているようだ...。

俺は三度も許せるほど心は広くない。」



なまえの殺気がリング上に立ち込める。

その殺気にルイは微動だできずにいる。



「結界を張った。お前のあの妖気を弾くほどのな...。

さて...このまま結界を縮めていけばどうなると思う?」


そう言いなまえは結界を小さくしていき、自らはその結界から出る。



「ま、待って...。私はただ貴方のことが...!」


「死んでから懺悔しろ。」





バチィ!!!




激しい光とともにルイは木端微塵になった。





「...あ...さ、3回戦はなまえ選手の勝利です!!」



2勝1敗  初戦は順調に進んでいた。







ザ・クレイジー fin.2013.8.4



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