薔薇の君の憂鬱
 






部屋に行くとシャワーを浴びる。

滴り落ちてくる自分の赤い髪が、血が流れてくるように見えた。




もう過去のこと...か...

あんなことを言っておきながら、まだ割り切れていない自分がいる。




バスルームの無駄に大きな鏡を見ると、情けない顔をした自分がうつる。







瓜二つの顔。きっとそれは成長しても同じ。

彼女が生きていれば髪を伸ばしていたのだろうか。

化粧もして、女としての人生を楽しんでいたに違いない。




そこまで考えて、シャワーの蛇口を捻りバスルームをあとにする。







髪を適当に拭き、ハーフパンツにTシャツという楽な格好に着替える。


部屋に寝巻きは用意されていたが、何かあった時には動きにくそうな服。




そのままベッドに横になると自然と睡魔が襲ってきた。










ボンヤリとした意識の中、ガチャリ、とカギの開く音がした。


その音に一気に意識が覚醒し、無意識にそばに置いていた刀を構える。






















「...なまえ?」


聞きなれた声。




それにカチャリと持っていた刀を元の場所に戻す。



パタンとドアが閉まる音がして、蔵馬が部屋に入ってきた。






「...もしかして、相部屋...?」


「...そうみたいだな...。」




なんともいえない空気が流れる。







「俺、幽助たちの部屋で寝ようか。」

ソファがあるしね。


と言って蔵馬は部屋を出て行こうとする。






「でも、あの部屋のカギ持ってないだろう?」


「...。」
(入ろうと思えば入れるけど...。)




「蔵馬がいいなら、このままで俺は大丈夫だけど...。」






























キュッとシャワーの蛇口を捻る。

熱いシャワーを頭からかぶる。



恐らく男5人女1人で予約されていたんだろう。

大方あの覆面の人物は幻海師範。



なまえが男でカウントされていたんだな...。




ふぅーと思わずため息が出る。

別になまえと相部屋なのが嫌なわけじゃない。








彼女はある意味無防備過ぎる。

一度信用した人間を疑うことを知らない。






バスルームから出ると、部屋は誰もいないかのように静かだった。





ベッドを見ると、なまえが窓側を向いて横になっていた。


ギシリとベッドを軋ませて、その顔を覗き込むとその瞳は黒く縁どられていた。






顔にかかっていた髪を払う。

それでもやはり変わらず規則正しく静かに息をしている。




彼女の白い首に人差指を這わせる。

しっとりとした柔肌、それは間違いなく女特有のものだった。




このまま少し力を入れれば、もう二度と深紅色の瞳は開かれないだろう。








...やはり無防備過ぎる。



本日二度目の吐息をこぼし、空いているベッドに横になる。




ほどなくして、意識はまどろみはじめ常闇へと誘われた。








薔薇の君の憂鬱 fin.2013.8.3



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