金と煙草と酒と
 






間もなくして、一行は首縊島へと上陸し、ホテルへと案内される。



「ふぇ〜〜〜...ホントにここに泊っていいのかよ。」


眠りこけている幽助を肩で支えながら桑原はホテルの豪華さに面喰う。



そこにボーイが現れ、一同を部屋まで案内する。











くすくす

くくくく

あれが今回のいけにえ、ゲストよ...

可哀相にまだボウヤじゃないか...










(あぁ、そういえば。
金とたばこと酒と...あとはきつい香水の臭い。)

この臭いをかぐと懐かしいと感じてしまうのは、やはりこちらの世界の住人なのか。





そんな思考回路になまえは思わずため息がこぼれる。











部屋に入ると、ボーイが飲み物を運んでくる。





「...待てよ。まさかこん中に毒がもってあるんじゃ...。」

と、桑原は目の前のコーヒーを凝視する。




「そんなセコイ大会じゃないよ目的はあくまで純粋な闘いさ。」

「開催者の意図は、実力で俺たちを八つ裂きにすることだ...。」


そう言い蔵馬と飛影はそれぞれカップに口をつける。





なまえはソファに座ってうつらうつらしている。




「ま!用心にこしたことはねー。俺は持参した飲み物をいただく。」


そう言い桑原は『ぴええる多気』と書かれた缶ジュースを取り出す。






「...おかしいぞ......カップが一つ足りない。」

蔵馬の言葉にパチリとなまえが目を開ける。



「ん?いや、ちゃんと6つあったぜ。
...で、俺となまえが飲まずに置いているから計算は...。」




「だから不自然なんだ。幽助はまだ寝ているんだよ。
彼の分がいつの間にかない!」






すると、部屋の壁際からズズーという飲み物をすする音が聞こえる。


その音源に目を向けると、棚の上に帽子をかぶった小さな男の子がカップと手に持って座っていた。




――――いつの間に部屋の中に!



「はじめっから部屋に隠れいていやがったに違いねェ!!」


「...仮にそうだとしても、俺たちに気づかれずにコーヒーを持っていったことは事実だ...。」





困惑する桑原達をよそにその少年は礼儀正しく自己紹介をする。



「ゲストはいーね。退屈な開会式や説明会出ないですぐ試合でさ。」

あーそーか。どーせみんな死ぬからそんなの必要ないもんね。


鈴駒と名乗った少年は、指だけでカップの上で体を支えながら飄々と話す。





確かになんの意味もない、じじぃの演説が長々と大会前にあったな...

そんなことを思い出しながらなまえはコーヒーに口をつける。





「そういえば、そこの赤毛のあんた。
何回かこの武術会に出たことあるんでしょ?」

数回優勝したらしいね!と鈴句駒が無邪気になまえに声をかける。




「なっ...それ、ほんとかよ?!」

桑原は驚いてなまえに問う。






「しゃべりすぎだ...鈴駒。」

しかし代わりに聞こえてきたのは全く別の声だった。





「部屋の逆隅にもうひとり...!!
いなかった!!今度は間違いなくいなかった!!」


(...今度はゆだんじゃない)






そんな声の主に鈴駒はひょいひょいと駆けながら、ごめんよ是流!

と傍に行く。



「せいぜい最後の夜を楽しむことだ。
明日、お前たちはそのカップと同じ運命なのだからな。」


そう言うと同時に、なまえの飲みかけていたカップが真っ二つに割れる。




それにより、ずっと鈴駒たちに背中を向けていたなまえが、顔だけ振り向く。





鈴駒と是流の姿を確認すると、余っていた桑原の分のコーヒーに手をつける。











「おい、なまえ...あの鈴駒ってやつが言ってた事ってどういうことだ。」



鈴駒と是流が部屋を出て行ったあと、桑原はなまえに質問を投げかける。





「事実だよ。
ゲストとしてではなく、スポンサーの手駒としてこの武術会に参加したことがある。」



「...でも優勝したことあるんだろ?だったら今回も...」

楽勝なんじゃねーか?




なまえはカップのコーヒーを飲み干し、コトリとカップを机に置く。






「その時は戸愚呂が出場していなかったからな。

俺は戸愚呂に...弟の方に負けて、妹は戸愚呂兄に殺されたよ。」





その言葉に桑原は息を飲む。



そして一言、すまないと謝る。




「もう過ぎたこと。
今はそんなことよりも、生きて帰ることだけ考えて戦うしかない。」


明日は初戦だ。もう寝る。




そう言ってなまえは部屋を出ていく。


覆面の人物もそのあとに続く。













「...蔵馬...俺はこの世界をなめてたぜ。」

あいつのさっきの瞳ぇ見てわかった、俺の甘さを...







「...それだけで十分ですよ。」


割れたカップを見つめながら蔵馬は桑原に言葉を返した。









金と煙草と酒と fin.2013.8.3



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