尾花と夜風
 






最後の霊力を使い果たしたんだろう、なまえはそのまま気を失った。



倒れる前になんとか間に合い、なまえを支える。

先程よりも血の気を失った蒼白い顔。



状況が状況なだけに、仕方がないことだとしても、なまえはあまりにも無茶をし過ぎだ。



とりあえず、なまえを安全な場所に移して大量にいる養殖人間たちを始末することに専念した。



まずは、朱雀を倒すこと。
それが終わらなければどうにもできない。





程なくして、幽助と朱雀の激闘が終わりを迎え、無事に虫笛を壊すことに成功した。


霊力を使い果たした幽助と桑原君は、気を失い倒れこんでいる。




そんな3人を人間界に送るため、飛影とともに妖魔街を後にする。








向かう先は桑原君の家。
代々霊感の強い家系ということもあり、ここに幽助と桑原君を置くのが一番話が早い。


静流さんという、桑原君の姉に2人を任せてなまえを幻海師範のところに運ぼうとすると





「その子、何かに憑かれてるみたいだね。」

「え?」

「憑かれてる、というより囚われてる感じかねぇ。
ハッキリ何か見えるわけじゃないけど。」


そう言いふぅーっと、タバコの煙を吐き出す。




「まぁ、幻海のばぁちゃんとこに居るなら安心だね。
ごめんね、引き止めて。」

気をつけて帰るんだよ。



その言葉に頭を下げ、桑原家を後にした。




しばらくすると、腕の中でなまえが身じろいだ。

起きたのかと思ったが、何やら凄くうなされている。





先程の静流さんの言葉と鎌鼬の言葉が頭の中で交差する。



恐らく原因は...



そこまで考えると、目前に深い山がそびえる。




なまえは毎日この山を降りてあの図書館に、そして母さんの見舞いに来てくれてたのか...。



健気、まさにそんな言葉がしっくり来た。








山の中腹に来ると、長い階段が現れた。
この先に幻海師範の屋敷があるのか。



なまえの様子を見るとやはりうなされている。


急がないとな...

そう思い地面を蹴る。






しばらくすると屋敷の入口に着いた。


呼び鈴も何もないのでそのまま入って行く。




静かな和の屋敷。
空気がとても澄んでいる。




すると背丈の低い老婆が縁側に現れた。

ただの老婆じゃないことはすぐにわかった。
この人が幻海師範だ。





「お前さんが"先生"かい?
こんな山奥まですまんね。粗茶しかないが、茶でも飲んで行ってくれ。」



上がっていきな。




そういい幻海師範は襖を開け、茶の用意をしてくると言って、廊下の向こうに消えて行った。





お言葉に甘えて部屋に上がらせてもらう。




なまえを静かに寝かせ、腕と横腹の傷の状態を診る。
確かに止血は出来ているみたいだが、あまりにも痛々しい深い傷。




こんな傷よりも、もっと酷いものを今まで何千と見てきたはずなのに、思わず眉をひそめる。




いくつか薬草を取り出し、消毒をしていると師範が部屋に入ってくる。


そして、包帯やタオルなど治療に必要なものをよこしてくれた。






「ありがとうございます。」


「礼を言うのはこちらだ。
幽助のお守りで同行させたのに、お守り役のそいつがその様とはな...。」


やれやれ、とため息をつく。



「...なまえは何に囚われてるんです?」


ダメもとで聞いてみた。
妖怪の自分を信用して話してくれる保証はなかったから。






「8年程前かの...こやつがここに連れられて来たのは。」


ちょうどこんな時期じゃった。


そう言いながら外をぼんやりと幻海師範は眺める。





立派に穂を付けたススキが夜風に揺られ、サワサワと音を立てていた。








尾花と夜風 fin. 2013.7.29



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