案ずるのは
 







その後、幽助たちは敵に阻まれることなく、順調に朱雀の元へと進んでいた。

...とある攻防戦を残して。







「く、蔵馬。もう自分で走れるから...。」

なまえは羞恥心から蔵馬にそう抗議する。



すると二コリと綺麗な笑顔で蔵馬はなまえに微笑む。


「何度言ったらわかるんですか?
君は俺の治療をはじめ、桑原君も治療したんです。

そのあとに鎌鼬と戦い、かなり霊力を消耗した。

その上、俺の言うことも聞かずに自分で自分の傷を、しかもかなり深手の傷を治癒した。



これのどこが大丈夫なんです?」



血もたくさん流したんです。
こんな階段で倒れて、頭でも打って記憶喪失にでもなる気?



と言いながら、心なしか左肩に回っている蔵馬の手が、傷口に食い込んだ気がした。



「...すんません。」

蔵馬の圧倒的なオーラに、なまえはそれしか言えなかった。




そんな2人の様子を見ながら、幽助はにやにやしていた。


「浦飯...おめぇはどうしてそんな楽しそうなんだ。」

桑原がげんなりしながら幽助に問う。



「これのどこがおもしろくねぇんだよ。
あんな姿を俺達に見られるなんて、あいつ一生の恥だと思ってるに決まってるぜ。」

日ごろの恨みじゃ、と幽助はなおも面白そうに見ている。



(いやいや、そりゃ恥だろうけどよ...)
問題はそこじゃねー。

桑原の心の叫びが幽助に届くことはなかった。



(せめて背負ってくれればなぁ...。)

そんななまえの心の声も届くことはなく、どんどん朱雀のもとへと近づいていく。








ピピピ






「幽助!こちらぼたん。
今螢子ちゃんと学校にいるよ!
魔回虫にとりつかれた人間に囲まれてる!!」


あきらかに螢子ちゃんと狙ってきてるんだ!


そのぼたんの声を最後に通信は途絶えた。






「っくそぉ!!早くしねーと...!!」





そして、塔の最上階手前までたどり着く。
しかし、幽助たちの行く手には大量の養殖人間が立ちはだかる。



「朱雀って奴ぁとことん性格ワリーぜ!!このままじゃ雪村がやべーぞ!!」


「くそ!面倒くせー!俺のショットガン式霊丸百連発で粉々にしてやらぁ!!」



そんな焦る幽助を蔵馬が制する。


そして、この塔の最上階へ今すぐ到達する方法を飛影が提案する。






















「くそーっ!!行ったるわ!!!」








それは桑原が土台となり蔵馬・飛影を肩車し、塔の窓までの踏み台となることだった。


もちろんなまえは、踏み台となることは免れた。





「うおぉぉおお行くぜーーーーっ!!!」




幽助は思いっきり3人を踏み台にして飛ぶ。



窓まであと数メートル。
しかし、そこで加速力が止まった。





「げ。」

「まずい!あのままでは!!」

落ちる!!



その時、ドンっという衝撃が幽助の背後に当たり、その衝撃で窓に到達する。



後ろを振り向くと、幽助の霊丸と同じ構えをしたなまえがいた。





「! 霊丸を打って、幽助を窓まで押し出したのか...!!」
(もうほとんど霊力は残ってないはずなのに...!)



「幽助...お前の治療はもう出来んからな...。」
死にかけても助けてやれないぞ。



なまえの言葉に幽助はぐっと親指を立てる。




「桑原!蔵馬!飛影!サンキュ!!
無事に戻ったらおごるぜ!!」





そう言い、塔の中へと乗り込んだ幽助の背中を最後に
ぐらりとなまえの視界は暗転した。



遠くで自分の名前を呼ぶ声と、薔薇の花の香りがした。








案ずるのは fin.2013.7.28



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