幻は赤く染まる
 





「見ぃつけた...。」

そう言い鎌鼬は三日月のように口元に弧を描き、みるみる姿を変えていく。



「!!」


その姿を見た途端、なまえの動きが止まる。

その隙を逃さず、鎌鼬はその手に持つ鎌をなまえめがけて振り切る。




「っ!」


なまえの左腕から鮮血が吹き出す。



「なまえ!」

「あ、あれは...?」



先ほどまで獣の姿をしていた鎌鼬は、今は小さな少女の姿をし
その手にはその姿に似つかわしくない大きな鎌が握られていた。




「見つけた見つけた。お前の弱いところ。」

そう言いケタケタと楽しそうに笑う。




「...。」
なまえの表情は悲痛に歪む。

左腕からは止めどなく血が流れる。




「おい!なまえ!大丈夫か?!」

「なぁ浦飯おい、あの子供なんかなまえに似てないか?」



桑原の言うとおり、鎌鼬が化けたのは赤い髪をしたおかっぱの子供だった。



「くくく...私の能力はただ幻覚を見せるだけじゃない。
人の弱みにもつけこめるのさ。


現にお前にこの姿の私を殺せないだろう...?






妹の姿の私を。」




「!」










―――なまえ!見て見て雪だよ!雪合戦しようよ!


まだ降ったばかりだから出来ないよ...


じゃあ、積もったら3人で雪合戦しようね!約束!

ゆーびきーりげーんまん...――――――







「...っ。」


ズキン


ズキン




痛い いたい イタイ...


どうして なんで なんで...














「バイバイ」




その言葉とともに鎌が降りかかってくる。





「なまえ!!!」



「っ!」


蔵馬の呼ぶ声にハッとし、鎌を避ける。


「いっ...」


しかし、避けきれず腹部に鎌の刃が掠める。




「くくく...いくら血の瞳や死神だと言われても、肉親だけは殺れないようだな...。」


鎌鼬はにやりと笑いながら鎌についた血を舌で舐めとる。



「っあいつ...汚い手を使いやがってっ!」




(なまえ...。)
蔵馬は先日見たなまえの表情を思い出す。




ぐっとなまえは足に力を入れ、立ち上がる。



「っ確かに...俺は妹を殺せない。
...もうこの世にいないのだから。」


フッとなまえは姿を消す。




「!」
(なまえの気配が消えた!)




ザシュッ!!





なまえは一瞬で鎌鼬の背後に移動し、その首元に後ろから刀を突き刺した。


鎌鼬は子供の姿から元の姿へと戻り、静かに絶命する。





「はぁ...はぁ...っ。」

なまえはその場に跪く。




「なまえ!」


「...ひどい傷だ。応急処置しかできないけど、手当をするから動かないで。」


「大丈夫...。止血は自分で出来る。」

そう言いなまえは傷口に自分の霊気を当てる。



「...大丈夫か?」


「大丈夫だ。それよりも時間がない、先を急ごう。」


(大丈夫なら目を閉ざして、背後から止めなんて刺さないだろう?)

蔵馬は静かになまえの横顔を見る。




「...ともかく、あとは朱雀一匹だ。おめぇは休んでろ。」


「そうも言ってられない。万が一のことがあるしな。」

そう言いなまえは立ち上がる。



その瞬間、体に浮遊感を感じ視界がぐりんと回転する。




「まったく...君は本当に強情だ。」

そんな蔵馬の呆れた声がすぐそばから聞こえた。



蔵馬がなまえを横抱き、要はお姫様抱っこをしていた。




そんな様子をみて幽助がひゅーひゅーとはやし立てる。

桑原はもう見てられない、といったように頭を抱えていた。



「さ、先へ進みましょうか。」


蔵馬の一言に一行は再び朱雀の元へと急ぐ。








幻は赤く染まる 2013.7.23



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