裏切りの門を突破し、四聖獣が待つところへと進む。
人間界で魔回虫の駆除を行っているぼたんから連絡があり、今のところ何も起きていないらしい。
「ところで蔵馬、四聖獣ってどんな奴らだ?
妖怪のことならオメー達の方が詳しいだろ。」
「霊界が彼らを魔界に封じこんでいることからもわかるように、危険な連中だよ。」
かなり人間離れしているからビックリするかもね
そんな蔵馬の言葉に扉の向こうから反応があった。
扉をあけると岩のようなごつごつとしたものに体を覆われた玄武が待ち構えていた。
「ででで、でけェ!!」
「上に行く階段はここしかないぜ。俺を倒していくか、死体となっていくかだ。」
そう言いながら玄武は岩のような尾を振り、ドカッと地面を叩く。
「四聖獣というからもっと神々しいものだと思ってたけど...」
「彼らは魔界に住む妖怪だからね...君が想像しているのは聖獣の方だよ。」
蔵馬の言葉になまえは、ふーんと納得する。
「そんなことより!どうやってこんな化け物と闘うんだよ?!」
そんな桑原の言葉に現実に引き戻される。
そういえば、階段はここしかないとか言ってたな...
「俺がやろう。」
「え...」
「蔵馬!」
「敵の性質がわからない以上、全員で行くのは危険だ。
それに、飛影にばかりいい格好をさせるわけにはいかないしね。」
すると飛影はうるさい!と返すが、心なしか頬が赤くなっていた。
「む、ムチャだぜ!
それよりなんとかスキを見て、上に進んだ方が...!」
「貴様は蔵馬の強さを知らんからな。
なぜ俺が奴と組んだか教えてやる。敵に回したくないからだ。」
飛影の話によると、蔵馬の冷徹さは飛影以上らしい。
そう言えば、いつしかの化け狸もそんなことを言っていた気がする。
「さぁ...どこからでもどうぞ。」
しかし、玄武は微動だにしない。
蔵馬が行動に移そうとしたその時、玄武の尻尾が地面に溶け込んでいき、そして...
「?!」
ドシュッ!
蔵馬の背後から出てきた尻尾が、蔵馬の腹部をかすめる。
「蔵馬!」
「岩の中を通じて尻尾が移動しやがった!」
玄武の能力は岩と一体になり、その中を自由に動けること。
この部屋全体が玄武自身らしい。
「蔵馬!大丈夫か!!」
「心配はいらない、かすり傷だ。
不意を突かれて多少驚いたがね...。」
(かすり傷程度であんなに出血するはずがないだろう...。)
志保利さんの言うとおり、本当に生傷が絶えない人だな...
そう思い、思わずため息がでる。
そして玄武は完全に岩に溶け込みその姿が見えなくなった。
蔵馬は神経を研ぎ澄まし、少しの変化も見逃さないように構える。
「...!また後ろか!!」
「いや、前からもだ!」
蔵馬は巧みに体制を変え、前後から挟まれた攻撃をすれすれでかわす。
が、玄武は再び岩の中へと姿を隠し、同じ手で攻撃をしかけてくる。
「オラオラ!いつまでも逃げてばかりでは勝てんぞ!!」
「確かに貴方の言うとおりだ。俺も本気を出そう...。」
そう言い、蔵馬は赤い薔薇の花を取り出す。
「ば、薔薇の花ーーーーー?!蔵馬ぁ!血迷ったのか?!」
「もちろんただの薔薇じゃない...
薔薇棘鞭刃(ローズ・ウィップ)!!」
すると薔薇は可憐な花から、棘のついた鞭へと変化する。
それと同時に部屋に薔薇の香りが漂う。
(蔵馬からしていた花の香りは薔薇の香りだったのか...)
そう、蔵馬からはいつも花の香りがしていたのでいつの日か、香水でもつけているのか?と聞いたことがある。
そんなものつけないよ、柔軟剤の匂いかなにかじゃないですか、と言われたことがある。
(普通に薔薇の匂いだと教えてくれてもよかったのに...)
なんて考えていると
「おい、なまえ。まさか蔵馬に見惚れてるんじゃねーのか?」
と、幽助がにやにやしながら話しかけてくる。
「見惚れるって...え、なまえ、お前さんまさかそっちの気があるのか...?」
確かに蔵馬は女顔だけどよぉ...
そう言いながら、桑原はなぜかドン引いている。
「くだらん。貴様ら油断していると死ぬぞ。」
飛影にそう言われ、再び蔵馬と玄武に目線を戻した。
運ぶのはミスター・リンカーン fin.2013.7.21
※ミスター・リンカーン=薔薇の品種名