針は夕闇にとける
 


目には見えないが、ピリピリとした空気が空間を支配する。


そんな不穏な雰囲気に、ぼたんは耐えられなくなり口を開く。




「い、いやぁ、その子が来てくれて助かったよ。蔵馬とその子は知り合いなのかい?」


「ああ、ちょっと前に知り合ってね。かなり世話になってるよ。」


と、そこに飛影を倒した幽助がふらふらと現れる。




「3人とも大丈夫か?!螢子は...?!」


「大丈夫、薬が効いてるよ。それにその子がほとんど治してくれたからね。」


「...ああ?!おめぇは確かあん時の!!」


と、なまえに指を指す。




「なんだい、幽助も知り合いなのかい?」

「知り合いっつっても、一回しか会ってないけどな...。
それより蔵馬!大丈夫か...?ワリィな...」

「急所は外しているから平気さ。
それに、なまえがすっかり治してくれたからね。」



その言葉に視線がなまえに集まる。

「そっか...。えーとなまえ、螢子とぼたんのこと助けてくれてありがとな。」

「...。」



やっぱり礼を言われるのは慣れないな...


そう思いながら、なまえは幽助の胸のあたりに手をかざし、霊気を送る。



「おめえなんで...!」

「そんなふらふらな状態で、彼女を運べないだろ。」

そう言い、ある程度幽助が回復したのを見計らい
踵を返しその場から去っていく。




「...蔵馬、あいつ一体何者なんだ?」

「実は、俺もあまり詳しくは知らないんですよ。
ただ一つ言えることは、とっても優しい女の子ってことかな...。」

「あ...女の子...。」

「ぼたんおめえ、さてはなまえのこと男だと思ってたな?」

そう言いながら、幽助はにやにやする。




「そういう幽助こそ、少し前までなまえのことを男だと思ってたでしょ。」


俺の目は誤魔化せませんよ。
そう言いながら蔵馬は立ち上がる。


「あり?ばれてた?
昨日、お前がなまえのこと"彼女"って言わなかったら、ずっと男だと思ってたぜ。」


わははと笑う幽助をそのままに、蔵馬も倉庫を後にした。














「なまえ!」

「...。」

「...これ、忘れ物ですよ。」


そう言い渡されたのは先ほど買った茶の葉の入った袋。


「...ありがとう。」

そう言い受け取ろうとするが、袋を離してくれない。

怪訝に思い、蔵馬の顔を仰ぎ見ると




「やっと目を合わせてくれた。」

と、困った顔をして微笑んでいる蔵馬。



「...。」




暫くの沈黙ののち、蔵馬が口を開く。


「...君に謝らないといけないことがあります。
昨日はきつく当たってしまってすみません。」



だってそれは、俺に貸しを作りたくなかったからだろ?



「嫌いだなんて嘘です。
君があんなことを考えているなんて、思ってもみませんでした。

それに加え、君が俺のために命を捨てようとしているのを知って、本当に心臓が止まるかと思いました。」



そう言いながら、苦しそうな表情をする蔵馬。


そんなに俺に踏み込まれたくないなら、これ以上関わらなければいいのに...




「君に簡単に命をかけてほしくなかった。だからあんなことを言ったんです。」




なんで...


「なんでそんな表情(かお)するんだ。
蔵馬は俺をこれ以上近づけたくなかったんじゃないのか...?」





ああ、そうか...だからあの時...




―――俺に厄介になるのが嫌か?―――――





「ふふふっ。」


思わず笑いがこぼれる。

そんな俺にまたもや怪訝そうな顔をするなまえ。



「君は、勘違いをしているよ。


俺が、君にこれ以上踏み込んでほしくなくて怒ったのかと思ってたの?」


「...そうじゃないのか?」



やっぱり...


「君はほんとに早とちりが多いですね。そんなこと、微塵にも思ってませんよ。

むしろ君のことをもっと知りたいと思っているのに...。」



そう言いながらなまえの頬を両手で包む。
いくらこうやって瞳をのぞいても、君のことはほんの少ししかわからない。



「どうすれば、君の全てを知ることができる...?」


思わずそんな言葉がこぼれていた。



すると、俺の手からするりと抜け少し前方になまえは移動していた。


そして

「やっぱりお前は嫌いだ。」


なんて言葉を残して夕闇に消えていった。



君の頬が赤かったのは夕日のせいということにしておこう。









針は夕闇にとける fin. 2013.7.14



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