親と子
 




いつもの場所、いつものように赤い髪が見える。
どうしてだか、その姿に安堵する自分がいた。


「すまない、待たせたね。
…あれ?カラコンですか?」

いつもの深紅色の瞳が茶色になっている。



「こんな真昼間からだと流石にな。
それに、巻き込んでしまったら申し訳ないからな。」

なまえの言う巻き込むとは、あの狸が言ってた血の瞳という異名のことだろう。


「気を遣わせてすまない…そろそろ行こうか。」

そう言い、二人は図書館を後にする。

















「…大丈夫ですか?」

病院に着くや否や、蔵馬はなまえに尋ねた。




「あまり顔色が良くないね、水でも飲む?」

「大丈夫、じきに慣れるよ。」

病院の独特の匂いにやられたんだろう、なまえは相当鼻が敏感らしい。
蔵馬は直感的にそう感じた。



「そうか…あまり無理はしないようにね。」

そして二人はエレベーターに乗り、受付を済ませ、ある病室の前で止まる。









そこには『南野志保利』と書かれたプレートが。


「南野…?」

「南野秀一、それが俺の仮の名前ですよ。」


そう言い蔵馬はドアをノックし
母さん、入るよ。と声をかけてドアを開ける。



「秀一…昨日は心配かけたわね。」

そう言い蔵馬の母、志保利は起き上がろうとする。



「ダメだよ母さん、寝てなきゃ。」

蔵馬は起き上がろうとする志保利を慌てて制した。


「ふふ。秀一は心配性なんだから。
…あら?そちらの方はもしかしてなまえちゃん?」

名前を知られていたことに少し驚きつつも
はじめまして、と挨拶をする。


「やっぱりそうね。
最近秀一がお友達が出来たって、何だか毎日楽しそうだったから…。」

「母さん!」

と、その言葉に珍しくも焦った様子の蔵馬。



「ほら、なまえもそんなとこにいないでこっちにきなよ。」

その言葉に失礼します、と一言添えて近くまで行く。


「この子ったら、お友達を家に呼ばないし、お友達と遊びに行ってくるなんて言葉も、
まったく言わないから心配してたのよ。」

「…そうだったんですか。」

「母さん、余計なこと話しすぎだよ。」

俺は笑いを堪えるので、その一言を言うのが精一杯だった。


どう見ても、親子なのに。
何を悩む事があったんだか…



「ふふ、ごめんごめん。
でも母さん嬉しいのよ?こんなかわ…」

そう言いかけて、志保利は咳き込み出した。


「母さん!」

「ゲホッゴホッ…ッ」

「大丈夫ですか?」

そう言って、志保利さんの背中へ手を添える。


「……。」


手に神経を集中させ、気の流れを確かめる。
そして、気が滞っている場所を見つけ、そこに自分の気を送る。


「コホッ…はぁ、はぁ…。
ごめんね、少し器官が詰まっただけよ。」


苦しいはずなのに、志保利さんはニコリと笑みを浮かべる。

様子が落ち着いたことに、蔵馬はホッと胸を撫で下ろす。


そして俺が引き続き気を送っていると


「なまえちゃんの手は不思議ね。
とっても暖かくて、なんだか元気を貰ってるみたいだわ。」


その様子に少しでも効果があったようで、俺もホッとする。

志保利さんの気の流れを読んだ時、内心冷や汗が出た。
あまりにも生命エネルギーが弱まっていて、医者の見立てが嘘じゃないと実感したからだ。


「こんなんで元気になるんなら、毎日でもしますよ。」

これは紛れもない本心だった。
すると





「「ありがとう。」」





そんな言葉が重なりあって聞こえた。





親と子 fin. 2013.7.9



前へ 次へ

[ 11/88 ]

[back]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -