おもいを言葉にするには
 




まだまだ残暑厳しい日が続く、そんなある日。
いつものように、いつもの場所で蔵馬を待つ。


ふと窓の外を見ると、彼と会った時はまだ芽が出たばかりだった木々の葉も

そう遠くない冬に向けて身支度をしている。



(早いもんだな…)


と、今までの出来事を思い出しながら蔵馬を待っていた。
















(…おかしいな。そろそろ来ても良い頃合いなんだが。)


そう思い、時計を見ると17時を過ぎていた。


(何かあったのか?)

と、以前の化け狸の件もあり心配になったが


少し前に、クラスの女の子に引き留められ
なかなか来れなかったことがある。

今回もそれだろうと、引き続き待つことにした。






















ふと気が付くと、窓の外は真っ暗になっていた。
待ちながらうたた寝してしまっていたらしい。

時刻を見ると21時を回っていた。

これはうたた寝レベルじゃないな、と熟睡し過ぎた自分に苦笑が零れた。



しかしこの時間になっても来ないところを見ると、本当に何かあったんだろう。

そろそろ閉館ということもあり、外に様子を見に行こうと席を立ったその時





「なまえ!」




と、珍しく少し慌ただしい蔵馬が現れた。



「今日はすまない…まさかまだここに居たなんて…。」

と申し訳なさそうに眉を下げる。


「いや…ちょっと居眠りをしてて今起きたところだから気にするな。」

「ありがとう。でもこんな時間まで寝てたなんて…。」

君らしいといえば君らしいですが、
と微笑む蔵馬の表情が、いつもと少し違った。



「なにかあったのか?」

そう言うと少し驚いた顔をし、


「...少し付き合ってくれますか?」

そう言われ、図書館も閉館時間をむかえていたので場所を変えた。













とりあえず、近くの公園のベンチに腰をかけることにした。
隣りに座る蔵馬の顔は、先程とうってかわって暗かった。


相当な事があったんだろう、話しを催促するのは気が引け、蔵馬が話すまで待つことにした。






「...どうして..」


「?」


「君はどうしてそうやって俺の言葉を受け入れてくれるんです?」


「え?」


「あの時図書館で再会した時もそうでした。
俺が一方的に会う約束をしても、なにも疑いもせず受け入れてくれたじゃないですか。

今だってそうです。
こうして何も言わず隣りにいてくれる。」



下を向いていて表情は伺えないが、
きっと悲しい顔をしているんだろう。



「最初に言った通り、はじめは興味だったよ。
でも今は...」










今はなんだ...?









次の言葉が見つからずに沈黙している俺を不思議に思ってか、蔵馬がこちらを見た。



「今はなんです?」

「今は...」

「今は?」

「...。」


言葉に詰まり、今度は俺が俯く番だった。



「すまない、ちょっと意地悪な質問だったみたいだね。」

そう言う蔵馬の顔はいつもの蔵馬の顔だった。
しかしそれも束の間、再びその表情に陰りが見えた。




そしてポツリポツリと話しだした。




「...母さんが倒れて、入院した。




あと1ヶ月もつかどうからしい...。」









「...そうだったのか。
なら、俺に付き合ってる場合じゃない。

少しでも長く、傍にいてやれ。」


「...それじゃダメなんだ。」


蔵馬はそう、苦しげに言葉を吐く。


「彼女には、両想いの男性がいる。
その人と今から幸せな人生を送らなきゃいけないんだ...っ」

ギリッと膝の上の拳を強く握る。




「...考えよう、何か方法があるはずだ。」


気づけばそんな言葉がこぼれた。



「...。」

「霊波動なら何かできるかもしれない。」


霊波動は極めれば、それを以ってして怪我人や病人を治すことができる。

俺にそれが出来なくても、師範になら出来るかもしれない...。



「...君には、救われてばかりな気がするよ。
ありがとう...。」




そう言って柔らかく微笑む顔を見て
心臓の鼓動が速くなったのは、きっと気のせいじゃない。









おもいを言葉にするには fin. 2013.7.7



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