葉月のある日(後)
 





...ナカナカナカナ カナカナ カナカナ...




そんな夕暮れの音をBGMに本を読んでいると


目が覚めたんだろう、隣りからむくりと起きる気配がした。




「...何時間くらい寝てた?」

「2時間ほど。」

「そうか...あ。」

「?」

「師範から使いを頼まれてたんだった。」



















頼まれていた茶の葉を無事に買い、二人で夜道を歩く。



「すまない、こんなのにまで付き合わせてしまって。」

「いえいえ、俺が勝手に付き合っただけですよ。」

「...ほんとに、こんな事に付き合わせてしまって...。」



そう言い、後ろを振り返ると一人の男が立っていた。



「お初目にかかります。
わたくし野中と申します。あなたが'血の瞳'のなまえさんですね?」

と、男は人の良さそうな笑みを浮かべながら会釈をしてきた。


「この度は始末していただきたい妖怪がおりまして...
あなたに頼もうと、随分とお探ししておりました。」

「悪いが今は休業中だ。始末屋なら他をあたってくれ。」

そう言い、再び歩み始めようとすると



「大盗賊、妖狐蔵馬という名前をご存知ではないですか?」



その言葉を聞き、二人はその場にとどまる。



「十数年前、ハンターに追われ人間界に逃げ込んできたみたいでねぇ。

それが最近、この町の妖怪をしきりだして困ってるんですよ。」


今なら、力もあまり戻っていない。
百戦錬磨のあなたなら倒せない相手ではない。



男はそう言いながら揉み手をする。



「...そんなに始末したいんなら、今すぐ自分で始末すればいいだろう。」


え?と、予想外の言葉に男は驚く。


「お相手なら、今からでもしますよ。」

と、蔵馬が一歩前に踏み出す。



「...驚いた。お前があの極悪非道の大盗賊、妖狐蔵馬?

まさかここまで妖力が落ちていたとは...
こうなれば、血の瞳に力を借りんでも直接手を下せるわ!」


そういうと、男はみるみるうちに妖化し茶色い獣になった。



「化け狸か...
まさか人に化けて依頼してくるなんてな。」


元はこの周辺の主だったんだろう。
そこに蔵馬がきたことで、悪巧みが出来なくなり今に至る、か...


妖怪も大変なんだな、となまえは蔵馬と化け狸の戦いを静かに見ることにした。
















ほどなくして決着はついた。



「...とどめを刺さなくていいのか?」

「そこまで悪影響はないからね。今は放っておいてもいいでしょう。」

そう言って蔵馬は背を向けて歩き出す。




(くそ...化け狐め...必ず殺す、かなら...




ザシュッ



鈍い音に蔵馬が驚き後ろを振り返ると、そこには血溜まりができていた。


「どこが極悪非道なんだか...まったくのお人よしじゃないか。
こういう奴は早いうちに芽をとっておかないと、後々厄介だぞ。」

そう言いなまえは短刀を懐にしまう。



「...俺は始末しなくていいんですか?
俺も同じ、人を誑かす狐ですよ。」

「別に俺は退治屋でもないからな。
それに、人を騙すことで悩んでいるお前を始末する理由が見つからない。」



そう言って、なまえは暗闇の中に消えていった。











「...あなたも、人のことを言えないですよ。」


と、蔵馬は一人呟いた。







葉月のある日(後) fin. 2013.7.7



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