葉月のある日(前)
 






...ーン ミンミンミン ミーン...



そんな夏の音が聞こえてきて、俺は意識を取り戻した。


師範と組み手の最中、どうやら師範の拳がクリーンヒットしたらしい、意識を失い縁側で寝かされていた。



体を起こすと

「...いたい。」


よく見ればあちこちに痣がある。



どれくらい意識を飛ばしていたのか、時計を見ると16時を過ぎていた。


やばい、遅刻だ。


そう思い急いで目的の場所に行こうとすると



「なんだい、男でもできたのかい?」

「師範...」

「最近この時間帯になると、どうも落ち着かないね。
修行に身が入っとらん。」

「...薬草のことを教えてくれる先生がいるんです。」

「...そうかい。気をつけて行ってきな。
あ、そうそう。ついでに茶の葉を買ってきてくれよ。」

その言葉を聞き、急いで蔵馬の待つ図書館へ向かった。

















目的の場所に行くと
スラリとした脚を組み、ソファに腰掛けながら本を読んでいる蔵馬の姿があった。

絵になるとはこの事なんだろうな、となまえは思った。

すると気配を感じたのか、蔵馬が顔を上げパチリと目が合う。


「良かった。君がいつも先にいるから、何かあったのかと思ったけど…色々あったみたいだね。」

と、蔵馬は蔵馬は苦笑しながらこちらを見る。
苦笑の原因は、この痣だらけの身体のせいだろう。


「遅れてすまない。ちょっと修行でヘマをした。」

「なるほどね。君の治療も兼ねて、山に行きますか。」

そう言って本を片付け図書館を後にした。


















「ツワブキの葉をこうしてよくもんで、出てきた青汁を打ち身に塗ると痛みが引いて、痕も残りにくくなるんですよ。」

そう言って、蔵馬持参の薬研を使い、治療用の薬を作る。


「これでよし。ちょっと腕を貸してください。」


そう言って左腕を引っ張られるが

「…っ。」

痛みで顔が歪む。



「…かなり重症ですね。骨は折れてないみたいだけど…。」

そう言って、薬を患部に塗っていく。



腕が終わると今度は脚かと思いきや、
蔵馬の片方の手が顔に伸びてきて右頬を包む。


「顔にまで痣を作って…女の子なんだから顔に痕が残ると大変ですよ。」

そう言って、もう片方の手で左頬に出来た痣に薬を塗る。



「よくわかったな。」

「失礼ながら、わかったのは先日ですよ。
君を抱きしめたあの時に確信しました。」

なんてことをサラッと言うこいつは
女慣れしてるんだな、と心の中で思った。


色白の肌に綺麗な翡翠色の瞳、そして整った顔立ち。


元の姿を知らないが、人間の身体になった今でも独特の色香がある。
そんなことを考えながら、蔵馬の顔を観察していると


「…俺の顔に何か付いてますか?
そんなに見られるとさすがに恥ずかしいな。」

と、少し困った顔をしていた。



「...別に。」


妙に恥ずかしくなったので、顔を横に背けた。



すると、ため息とともにやれやれという声が(聞こえた気がする)し、


「足の方は、俺がするのもまずいんで
練習がてら一度薬を作りましょうか。」


そして数十分後、薬は完成し患部に塗り終えた。
が、しかし



「...気持ち悪い。」

今度はツワブキの強い青臭い匂いにやられた。


「少し休んだ方がいいですね。
体力もかなり消耗してるみたいだし...。」


薬草の匂いはじきになれます


そんな蔵馬の声を聞きながら、うつらうつらと舟を漕ぎだした。













「まったく...君は俺を信用しすぎですよ。」


そんな蔵馬の言葉は木々の葉擦れに消えていった。






葉月のある日(前) fin. 2013.7.7



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