晴れ時々...
 





初夏の日差しを受け、青々と色づく木々の中でふたりは今日も草いじり。



さわさわと、風に揺れて奏でられる木々の音が気持ち良い、そんな日曜日。






「ふぅ...いくら山の中とはいえ、さすがに暑いですね。」

「もう夏だからな。」

「少し休みますか。」

そう言って、木陰に移動する。


しかし、よくよく考えると奇妙な関係だなと蔵馬は思った。


あの日から約3ヶ月、毎日こうして山に二人揃って籠っている。
どうしてあの時手伝うなど、自分は言ったのか

(あぁ、謎に包まれたなまえの正体を掴みたいと思ったのが始まりか。)

と、一人で納得した。


しかし、なまえはなまえでなぜ蔵馬の誘いにのり、律儀にも毎日約束の場所に来るのか。

少し気になり蔵馬は聞こうと口を開きかけたその時、


「近くに川がある。」


そう言われ、耳に神経を集中させると確かに川のせせらぎの音がする。


「耳も良いんですね。普通の人間じゃ聞こえない音ですよ。」

その声には答えず、なまえは立ち上がった。





最近わかったこと...都合の悪い話しには反応が悪い。



やれやれ、わかりやすいんだかそうでないんだか...そんなことを思いながら蔵馬も同じく立ち上がる。












川の流れる音がする方へ行くと、そこには小川が流れていた。


上流付近だからだろうか、人が来ないため
澄んだ水が流れている。



二人は近くの岩場に座り、裸足で足を川に投げ出し涼をとる。
川の水は見た目通り、冷たくて気持ちがよかった。

そして蔵馬は先ほど言おうとした疑問を投げかける。


「今さらですけど、どうしてこうして毎日約束通り来てくれるんですか?

君も修行で忙しいんでしょ?」


「お前が薬草を扱うのは大変だと言ったからだろう。」


「それはそうですけど...。」


よく知らない人間、いや、妖怪をよくもそこまで信頼できるもんだな、と蔵馬は思った。



「...あとは、強いて言えば興味だよ。」


予想外の言葉にその翡翠色の瞳を見開く。


「お前のような人間くさい妖怪は初めて見たよ。
だから興味をもった。」



そう言って、なまえはざばざばと川に入っていく。






「人間くさい、か...。」

澄んだ川底を見つめながら、そうこぼし苦笑する。



「この身体は、本当は俺のものじゃないんですよ...」

そうぽつりと呟く。



「15年間騙し続けてきたんです。そしてこれからも...。」


そうぽつりぽつりと話しながら、顔を上げない蔵馬をなまえは静かに見つめる。





時折この妖怪の瞳には、暗い靄がかかるのだ。
だからこそ、"人間くさい"と思った。


「蔵馬はその人から生まれたんだろ?」

そう言うと、下を向いてた頭が上がった。



「だったら、まぎれもなく蔵馬はその人の子供だ。
それは変えられない事実だろう?」


川の反射で翡翠色の瞳がきらきらと光る。
蔵馬の元まで行き、人差指で額をつく。


「いくら騙そうが、お前がその人を母親として慕ってる限り、その人にとってはお前は何ものにも代えられない我が子なんだよ。」




そう言うと
視界が真っ暗になると同時にふわりと香る華の香り


そして頭上から




「ありがとう。」




という言葉が聞こえた。









晴れ時々... fin. 2013.7.5



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