小さなビブリオテークで
 



あの日から一週間。
結局なまえに会わずに過ぎた。


会ったとしてもきっと気付かないだろう。
知っているのは名前と瞳の色だけなんだから。

あんなに特徴的な瞳なら、普段はきっと隠しているだろう。


なんてことを考えながら町の図書館に寄った。


人の出入りが少ない古い小さな図書館。
誰にも邪魔されない静かな雰囲気が気に入っていた。


そんな図書館から頼んでいた本が届いたと連絡があったのだ。

図書館に着き、お目当ての本を探していると
視界の端に映る赤。


思わずそちらを見ると

長い赤い髪を高い位置で結わえている、
いわばポニーテールの、少年ともとれる人物が分厚い本を立ち読みしている。



するとその人物もこちらの視線に気づき目が合う。












「「あ。」」











場所を少し移し、木漏れ日の当たる窓際の席へ二人でかける。


「驚いた、まさか君とこんなところで会うなんて。」

(瞳の色も隠さず、こんなに目立つ格好で大丈夫なのか?)


「それは俺も同感だ。」

(顔が割れてる輩に会わないように、わざわざ人気のないここを選んだのに...)


「...俺と会ったら何か、不都合でした?」


申し訳ないように、蔵馬はそう尋ねた。
そんな顔をしてしまっていたのか、となまえは少し罪悪感が沸いた。


「蔵馬は何の問題もないよ。
ただ、仕事の都合上...ね...。」

「恨みを買うのも少なくないってことですか...。」


肯定の意味も込め、なまえは分厚い本を再びめくる。


「...薬草の図鑑?」

「師範からの宿題。
実際に自分で一通り調合しろって。」

「一通りですか...」

(さらっと言ってるけど、調合の仕方なんて幾通りもあるんだけどな。)


「よかったら手伝いましょうか?」

「え...?」

「その図鑑を見てもわかるように、一言で薬草といっても何千種類もあるんです。

それに、薬草に似た毒草もあります。
素人にその違いを見分けるのは、結構難しいと思いますよ。」

「詳しいのか?」

「専門分野は植物ですよ。」


そう言って蔵馬は活けてあった花に手をかざし
つぼみだった花を開花させた。


「...。」

「ね?」

「...お願いします。」


そんなものを見せられると頼まざるを得なかった。


「ふふ。素直でよろしい。
そうですね...明日からこの時間にここで待ち合わせでいいですか?
丁度良い裏山もありますし。」






こうしてまだ知り合って日も浅い蔵馬が座学の先生となった。










小さなビブリオテークで fin 2013.7.3



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