悲願まであと少し
 


*切なく甘い




------------------------------------------------------




------------------------------------------------------




彼はいつも、嘘をついた。









と言えば多少の語弊があるかもしれない。
きっと彼にはそのつもりは一切無く、結果として"嘘つき"になってしまうのだろう。

いつもいつも、約束した日には急に任務が入るし
じゃあ次に休みができたとき、となると弟君との約束の方が先にあったりしたりで

結局ほんの合間時間に、少し話すのが精一杯だった。


それでも彼は一生懸命約束してくれる。
それでも結局は"嘘つき"になってしまう。


最初は悔しかった。
彼の中には物事に対する確固たる優先順位があって、その一番である"忍としての任務"を揺るがせるものを私は持っていなくて。


そして忍としての彼は、何時だって引っ張りだこだった。
そんな私と彼が恋仲になれたのなんて、本当に奇跡なんだろう。


それでもやっぱり、彼はなんにも言わずに遠くへ行ってしまった。

あの日の夜に偶然見かけた彼の背中に向かって、一方的な約束をしたのを今でも覚えている。


あれが最後。
それっきり、彼と会ってはいない。

どのくらい会っていないのかなんて、覚えているけど思い出したくはない。


今更になれば、たかだか恋路に一喜一憂して、忍のくせに馬鹿みたいだと、昔の自分を鼻で笑ってしまうけど

それでも、あの時の私にとっては彼との間にできた恋が、馬鹿みたいに本当に特別だった。



「…。」


自分の部屋の窓からゆるりと夜空を見上げる。
どうしてこんな思い出に浸っているのか。
この夜が、あの日彼の背中越しに見た夜と似ているからか。

それでも、こんな夜は今日に限ったことではないはずで。
ならば何かの虫の知らせか。




(死んだのかな。)

端的にそう思った。
S級犯罪者で、国際手配犯で、さらには実の弟に本気で命を狙われている身だ。

忍で、さらにはそんなオプション付きならとっくに死んでてもおかしくはない。

いや、彼は簡単に死んじゃうような弱い忍じゃないけど。


アカデミー時代に彼が掲げていた夢をよく覚えている。
目標に到達する前に諦めてしまうような、そんな人間じゃないこともよく知っている。



(そうだ、あのイタチが死ぬはずないんだ。
どこかで生きてて、私のことなんて忘れて…)


頬に生暖かいものが滑り落ちる。
ぐっと奥歯を噛み締めてみる。
それでも、やっぱりその生暖かいものは顎を伝いポタポタと落ちていく。


彼が死んでしまってるのが怖いのか。
それとも、彼に忘れられていることが怖いのか。

それもある。
でも、何よりも怖くて悲しいのは



(私との思い出なんて、なかったことにされてるかもしれない。)


私とのことなんて、彼にとって取るに足らないもので
きっと運良く再会したところで何とも思われないかもしれない。


(きっとあんな一方的な約束なんて、覚えてたって守るつもりはないんだろうな…)


でないと五年も六年も、音沙汰ないなんておかしい。
いつの間にか、彼の弟のサスケ君だって里を抜けてしまった。




(イタチ…)


こんなに大好きなのに、私は貴方のことこれっぽっちもわかっていなかった。
イタチが一族を殺して里を抜けたのかなんて理由、全然思いつかないんだもの。

それでも、



「イタチ…会いたいよ」

よくわからない貴方に未だこんなに惹かれるの。
だって貴方は嘘つきだったけど、貴方の笑顔は誰よりも本物だったんだもの。






−−−コンコン、

と思いもよらず聞こえた扉のノックオンにハッと顔を上げる。

聞き間違い?
こんな時間に誰か尋ねてくることなんてない。
お隣さんかなと、確かめるように扉を見つめる。


コンコン…

もう一度音が鳴る。
今度は確かに自分の部屋の扉がノックされたのだと確信した。


こんな時間に…いったい誰が?
任務なら伝書鳩でもよこすだろうに。

そろりそろりと、気配を絶ちながら扉の傍に寄る。
だが、相手も同じ様に気配を絶っているのか全く誰かも検討がつかない。

敵の忍か、でもそれならノックなんてするだろうか。
頭の中で扉の向こうの者が何者なのか模索する。
クナイ…は一応準備をしている。


「…ど「俺だ。」



その声に、頭が真っ白になり気づけば扉を思い切り開けていた。

夜の色より深い髪に、純粋な黒色の瞳。
術などかけられていないはずなのに、そのまま息すらも止めて動けなくなる。



「…無用心過ぎるぞ。」

咎める声が何故だか優しく聞こえるのは、私の願望なのか。
その言葉にやっと、自分が息すらするのを忘れていたのに気付く。


「…イタチ…?」

呼んだ名に返事はなかったが、微動だにしない彼に肯定の意を感じ取る。
そんな癖は昔のまま…


「まさか…幽霊?」


だって、生きたまま彼が木の葉に帰ることは絶対にないことなのだから。
生きているなら、犯罪者として毎日追われているのだから。

ならば、最後に別れの挨拶をしに来てくれたと考える方が自然じゃないだろうか。
そもそも挨拶しに来てくれること自体奇跡に近いのだけども…



「…。」


頬を滑るなめらかな手のひら。
ふわりとかおる彼の香りは、瞬く間に記憶を引き出す。



「まだ、俺が死んでいると思うか?」


唇に感じた温かな感触は、もう随分と前に忘れていたはずなのに、ついこの間の事のように感じる。

それでもまだ何もかも信じられない私に、イタチはほんの少し眉を寄せ、困った様に笑む。



「…生きてる…」

「あぁ。」

「…っ…!」


その事実に、どうしようもなくなって、子どもの様に彼に抱きつき嗚咽を飲み込む。
そんなわたしの背中を彼は優しく撫ぜる。


「あの時の約束は、まだ有効か?」

「…っく、あ、あたりまえっ、じゃないっ…!」


そうか、という彼の穏やかな声が彼の胸板を通して頭にじわりと染みていく。




「…ありがとう。」


そんな言葉と共に、佇む夜へ二人で飛び込んだ。




彼岸まであと少し
(最後の最後は傍にいさせてください)



[ 4/7 ]

[back]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -