少女の心は夏のゲリラ豪雨
 


*切なく甘い



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ぽつ、ぽつ…ザーァ…



突然の大雨。

今の今まで太陽が容赦無く照りつけるほどの晴天だったのにも関わらず、
今やそんな太陽は最初からなかったかのように空は重たい鉛色に染まっていた。


ゲリラ豪雨というのか、夕立というのか。
夏の都内では最近じゃよくあることだ。



(最悪…)


おろしたてのサンダルは跳ねた泥で汚れた。

パステルカラーの、淡い緑色。
一目で気に入って買ったのに。


はぁ…と大きくため息をつくが、大きな雨音に吸い込まれてしまう。



ついてない。
本当に最近ついてない。

というよりも、憂鬱なことばかりだ。



それもこれも、魔界に行ったっきり帰ってこない彼のせいだ。


すぐに戻るとか言ってたくせに。
夏休みだけとか言ってたくせに。


なんなの。
魔界で元カノと再会してそのまま寄り戻したとか?
それとも初恋の人と再会してそのままイチャイチャしてるとか?


夏休み明けでもすぐなら海に行けると思ってダイエットしたのに。
綺麗な髪が好きだなんて言うから、お小遣い貯めてストパーあてたのに。



全部全部、蔵馬のために頑張ったのに。



蔵馬がいてくれなきゃ、見てくれなきゃ、何にも意味ないじゃない。


無意味に携帯を開く。
無意味にデータセンターにメール問い合わせたりなんかして。
新着メール0件の文字にまた溜息ついて。


…いつ帰ってくるかくらい、連絡くれてもいいじゃない。
向こうで新しい人が出来たなら、言ってくれればいいじゃない。




…本当に新しく彼女できてたらどうしよう。

そう考えると、途端にあんなに気に入ってたこのパステルカラーのサンダルが虚しく見えてきた。




バシャリ、


遠慮無く大雨の中、大股で歩く。
傘も差さずに。

頬に流れる水滴が雨水より温かい。



もういい、もういい。
パーマなんてどうにでもなってしまえ。
サンダルもうんと汚れればいい。


「…っう…っ。」

何処から現れたかわからない怒り。
何に対して怒ってるのか自分でもわからない。

でも、心はどうしようもなく虚しくて。
ぽっかり穴が空いたように何もない。
自分の意志と反して溢れる涙。


子供だ。
思い通りにならなくて駄々をこねる子供だ。

こうして雨の中傘も差さずに歩いて、あの人が追いかけてくるのを待ち望んでる。

来るはずがないのに。
だってこの世界にはいないのだから。

わかっていて、こんなことをする。



「…バカだなぁ。」

「本当に、バカだよ。」









「え?」




振り向けば、いないはずの人がそこにいて。



「な、んで…」

「何ではこっちだよ。
家に行っても出掛けたって言うし、連絡しても繋がらない。

やっと見つけたと思えば急に雨の中、すごい速さで歩き出すし…。」

少し怒ったような蔵馬の顔。
まだ、現実に頭が付いていけずぼんやりとその顔を見る。

ふ、と蔵馬の表情が優しくなる。



「せっかく…髪も綺麗にして、サンダルも新しいのに…こんな雨に打たせちゃ勿体無い。」

「…気付いたの?」

「そりゃ気付くさ。
またダイエットもしただろう。
そんなことしなくてもなまえは…」


懐かしい蔵馬の香り。
蔵馬が濡れてしまうのなんてお構いなく抱きつく。


「ごめん、随分と遅くなっちゃった。」

「…もう、帰ってこないかと思った。」

片腕で、蔵馬がぎゅっと抱き締めてくれればすっぽりと収まる自分の体。
あれ?ちょっと逞しくなったのかな、なんて。


「なまえを置いて居なくなんてならないよ。」

「…向こうで新しい人が出来たのかと思った。」

「なまえがいるのにありえないよ。」


呆れたように、それでも優しさを含んだその声に、ぽっかりと空いた穴がいとも簡単に塞がってゆく。


蔵馬の傘を畳む音で雨が止んだことを知る。
片手で器用だなぁなんて思いながら、空を見れば雲一つない晴天だった。













「それにしても、雨の中傘も差さずに歩いて風邪引いたりしたらどうするんだ。
服だってそんなに透けて、ほかの男に襲わせるつもり?」

なんて、こんこんとお説教されるのは言うまでもなく。



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