夏の魔物
 



「ほら見ぃ、あれが噂のルーキーやで!」


クッソ暑い中、演習の受付のためわらわらと人混みの中を歩いていると、主がバンバンと肩を叩いて指を指す。

そんな強ぉ叩かんでもわかるて。
と、何度言い聞かせても最早癖であるこれは治る兆しはない。


「…何か言うてはりましたっけ。」

「おっ前、ホンマに他人に興味ないねんな!
この前の演習ん時に、かっちゃん負かせた新人やん!」


あぁ、春先の演習のときか。
確かに何か騒いでいた気がするが、うちの主が騒ぐのは何時ものことで、特に気に留めていなかった。


ちょっと挨拶しに行ったろ。

そう言い、袖を捲り人の流れを逆流しようとする主の襟を掴んで止めれば、ぐぇ!っと大袈裟な反応をする。

ホンマ、静かにできんのやろか…


「止めんなや明石ぃ!」

「はぁ…先受付しましょうや。」

バタバタと足掻く主を引っ張りながら受付へと進む。
これじゃホンマに保護者や。

明石国行という刀の付喪神は、だらしなさと面倒臭がりで定評があるのだが
この主のお陰で自分の評価はすこぶる良いのが複雑だ。


そうしてひと騒ぎしながら受付を済ませ、待合室で番を待つ。
主は相変わらず煩く、先に始まった組打ちにやいのやいのといつものように野次を飛ばしていた。



















「第二十三番隊部隊、全刀戦線崩壊!
第九番部隊の勝利!!」


戦闘終了を告げる太鼓の音が何もない平地に広がる。

やっぱそうなるわな。
と、納得しつつ、でももうちょい頑張れば何とかできたかもしれんなと、地に落ちた眼鏡を拾い上げる。

眼鏡割れてしもとるし、早よ帰ってなおして欲しいと主を振り返れば
いつもは負けても煩いその口が、唖然と開いている。


「へぇ…演習とはいえ実戦さながらとは中々面白いなぁ。」

最後に依代と眼鏡を吹っ飛ばしてくれた相手の鶴丸は、息も乱さずキョロキョロと辺りを興味津々に見回す。

なんや、演習初めての相手に負けたんか。


「はぁ…こちとらこんなボロボやのに、そないに余裕見せられると悔しいの通り越して呆れてまうわ。」

「いやいや、まだ心臓が踊っていて余裕なんて全くないぜ?」

と、カラカラと笑うその顔を見て
体の余裕のこと言うたんとちゃうんやけど。と心の中で突っ込んだ。

そうして自分も周りを見渡せば、うちの膝丸が瞳をキラキラさせながら相手の髭切と握手をしている。

うちには兄者がおらんからな。
今のうちに堪能しときや。と、これも心に留める。


いや、それにしても向こうの審神者はんの表情の変わらんこと。
うちの主とあまりにも二極化している。
足したら割れずにプラマイゼロになりそうや。

そうして開始前と同じように相手の部隊に挨拶をし、皆で主の元へと戻る。




「…主、大丈夫?」

蛍丸が未だ放心状態の主におずおずと声をかける。
いつもは試合が終わったら、勝ち負けに関わらず煩い主が静かなのを、皆一様に様子を伺う。


「次の部隊の試合が始まる。
とりあえずここははけよう。」


膝丸の一声に、次郎太刀が主の背に手を添え歩き出す。

しかし、大太刀二振り、太刀三振り、打刀一振りの編成で白刃戦で負けるとは。
彼方は太刀ニ振りに短刀一振り、他打刀という編成だ。

自分達の能力は審神者の力も影響すると言われるが、うちの主も決して弱い類ではない。

だが、審神者の力云々の前に
あの審神者は生きて通ってきた道が違う。
たぶん、普通の人間ではない。

…審神者も普通の人間じゃないけども。



最後に後ろを振り向けば
まるで最初から居なかったようにそこには陽炎だけが存在していた。


夏の熱さと乗算する真っ赤な髪と
相反する冷水の如く青い瞳は
印象に残るには充分なものだった。



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