単純かつ不明瞭
 



「弱いものいじめをする趣味はないんだけどねぇ。」


シャクリ、シャクリと氷菓子に匙を刺しながら、ぼやりとそう呟く兄者を見る。

頬づえをつくその様からは、戦時の鬼神の如き気迫は微塵にも感じられない。


「はっはっは、まさか貴殿がそんな事を気にする玉だったとはなぁ。」

「流石にここ数日、稽古のたびにあんな目で見られちゃねぇ。」


三日月の言葉にいよいよ兄者は頬を膨らませる。

ここ数日というのは、兄者と主の稽古のことだ。
当然兄者は手加減なんてものをしない(できない)ので、主がいつも痣まみれで地に伏すのだ。


「単純に、必死になってるだけだと思いますが。」

「必死になってあの程度じゃ、困るんだよね。」

と、兄者は大きな溜息をつく。


実際のところ、本気の兄者の剣気を前にして臆することなく刀を交えられる時点で既に人間業を超えているのだが、兄者はどうやらそれでは満足しないらしい。


「なんだ、髭切は主を我らと同じ刀剣にでもするつもりなのか。」

「ぬし様がそうなった場合、刀剣女士…ということでしょうか。」

「となると、大きさ的に脇差かなぁ。
じゃあ遠戦の訓練もさせないとね。」


と、誰も突っ込まずに会話が進んでいくから平安生まれの刀の会話についていけないと、齢数百の刀達に言われるのだ。

と、心の中で突っ込むが俺一人でどうにもならないのはわかっているので、あくまで心の中だけに留める。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、兄者がにこにことこちらに笑みを向ける。


「お前はどう思う?」

「…どうと言われても、主は人の子だ。
何をしたって我らと同じ刀にはなれんだろう。」

そう真っ当に答えれば、つまらないなぁ。と兄者は匙をザクザクと氷菓子に刺す。


「それなら兄者は一体どうしたいのだ。
主は審神者だ。物に宿る思念をこうして具現化させ、維持できれば役務は果たしている。

戦場で敵を討つのは我ら刀剣の役目だろう。」


目の前にいる兄者が別の世界のものだからなのか、どうにも兄者の真意がわからん。
兄者の言葉を待っていると、一掬い氷菓子を口に運ぶ。
そしてその唇が、ゆっくりと弧を描く。



「僕の思いは唯一つ。
あの子には強くあって欲しいんだよ。

僕があの子に求めるのは唯のそれだけだ。」




強くあって欲しい。


何故そこに執着するのか。
ただひたすらに明快なその思いに
再び氷菓子を食する兄者にかける言葉が見つからなかった。



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