影を追う
 


万屋から帰ってくると、数名の刀剣達が出迎えてくれ
光忠さんや石切丸さんが荷台に引っ張ってくれていた荷物を、あっという間に片してくれた。

短刀の子らは骨喰さんからお目当てのものを貰うと、キャッキャと幼い子供のように喜んでいる。


私も手入れ用具をしまいに行こう、そう思い視線を上げれば、廊下の向こうで大倶利伽羅さんが壁に凭れ、こちらを見ていた。


「どうしました?光忠さんなら…」

「光忠に用はない。あんたに用がある。」


珍しい事もあるものだ。
この大倶利伽羅という刀剣は、私のみならず他の刀剣とも極力接触をしたがらない。

そんな彼が用があるというのだから相当の事なのだろう。
そうして次の言葉を待っていると、盛大なため息が彼から出る。

…なんだろう、私は何かしてしまったのだろうか。



「鶴丸が鬱陶しい。」

「…?」


思わぬ苦情に返す言葉が見つからない。

光忠さんと大倶利伽羅さんと鶴丸さんは、こちらの世界ではどうやらご縁のある刀らしく、よく三人(大倶利伽羅さんは巻き込まれてるだけだが)で居るのを見ていた。

てっきり心を許しているのかと思えばそうじゃなかったのか。
とはいえ鬱陶しいと言われるほど、鶴丸さんも騒がしい方では無いのだけれど…


「伽羅ちゃん、それじゃあ言葉が足らなさ過ぎだよ。
主が困ってる。」

と、光忠さんがフォローを入れてくれた。
どうやら"鬱陶しい"というのは、そのままの意味じゃないらしい。

大倶利伽羅さんと光忠さんの顔を交互に見る。



「最近、あいつが俺の所に来て鬱陶しいんだ。」

「因みに同田貫君の所にもよく行くみたいだよ。」


…どういうチョイスなんだろう。

鶴丸さんの好みはよくわからないが、
丁度手土産も持っていることだし、鶴丸さんに会いに行こうか。



「まぁこうは言ってるけど、伽羅ちゃんも本当に嫌がってるわけじゃないからね。」

にこりとフォローを入れる光忠さんに、大倶利伽羅さんは、おい。と睨みを利かす。
そんな大倶利伽羅さんを光忠さんが笑って宥めるが、視線は再びこちらを向く。


「それはさておき…こんなこと、僕が口を挟むことでもないけど…

鶴さん、何にも言わないけど寂しいんじゃないかな。」


「寂しい?」



そんなこと、全く微塵にも感じなかった。
いつも鶴丸さんは誰かしらと居る気がするから。

よくわからず、光忠さんの顔を見ていると、困った笑みを浮かべ、話を続ける。


「ほら、主がいつも外に連れるのは髭切さんだろう?」


あぁ、そういうことか。
でもそんなことを気にしているように見えたことがない。

そもそも鶴丸さんを連れないのは、彼の装いが他と違うのが理由なのだが
もし勘違いさせているのなら話した方がいいだろう。


「わかりました。
情報提供ありがとうございます。」


そう礼を言うと、光忠さんは微妙な表情でこちらを見る。
まだ話の続きがあるのだろうか。


「…ねぇ、主。
もしかして僕が言ったこと、そのまま鶴さんに伝えるつもりじゃないよね?」

え、そのつもりですけど。

と、いう意味を込めて光忠さんを見れば今度はため息をつかれた。


「いや、まあこういうのは二人の間柄の問題だから別にいいんだけどね。

あんまり単刀直入に、
髭切さんばかり連れてるから寂しいんでしょ。
なんて言われるとこう、プライドが傷つくというか…」

「…善処します。」


確かにもし本当にそうであれば、ど直球に言われて嬉しいものでもないし
光忠さんの思い過ごしである可能性もある。

とはいえ、どう話を振るもんか。
悩みながらも光忠さん達と別れ、鶴丸さんを探しに行く。





まずはさっき話題に出ていた同田貫さんの部屋に行くが、そこには居なかった。
同田貫さんに聞いてもさっき何処かへ行ったという。

次は畑、厨、屋根の上…などなど本丸の主要な場所をめぐるも見つからない。


出会った刀剣達に行方を聞いても、

"つい先程何処かへ行った。"
と皆口を揃えて言う。


ひょっとして逃げられているのか。
だとすれば、光忠さんの言うように私の行動に気分を損ねているのかもしれない。


「…。」

これは少し、本気を出すか。


職業柄、尾行は得意な方だ。
縁側の柱に手を掛け、再び屋根に登る。


居間は先程何処かへ行ったと、秋田君が言っていた。
ならばそこから向かうのは、厨か鶴丸さんの部屋か、三日月さんや小狐丸さん達の部屋がある方角だ。


「…。」

このまま手土産を持っていても悪くなってしまう。
とりあえず、厨に行こうと屋根伝いに移動をする。


そっと気配を殺し、厨を覗く。
そこには誰もおらず、手早く手土産を冷蔵庫に入れる。

その時、ふと気配を感じ直ぐさま後ろを振り向く。
ほんの一瞬、影かと思う程だったが、暖簾越しに黒い袖がはためくのが見えた。

黒い着物を着ている刀剣は何名かいるが、直感的に鶴丸さんだと確信する。

サッと入り口に移動し廊下を見るが、既にその姿はない。



…ここまで来れば絶対に捕まえてやる。


変な意地に火が付き、後を追うように廊下を音無く走り抜ければ、縁側の片隅に紫陽花が咲き始めていた。



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