スーベニアと辿る
 



城下町の風情が漂う街並み。
今日は買出しのため、本丸の外に出ていた。

と言っても、勿論ここも政府管轄内の場所であり
何処の歴史にも所属していない場所らしい。


だからこじんまりしたものかと思っていたが
かなり大きな町で、人々で賑わっている。

審神者自体も結構な数がいるため、これくらい大きな町でもおかしくはないのだが
明らかに審神者じゃなさそうな人もいるのは、この際突っ込まないこととする。



「えーと…米と小麦粉、塩に砂糖、諸々の調味料を買いたいんだけど、先に軽いものから済ませちゃおうか。」

「そしたら先に薬屋に行っていいか?
そんな量にはならねぇ。」

そんな会話をしている燭台切さんと薬研君の後ろを
石切丸さんと骨喰さんとついていく。




「日用品の買い出しは彼らに任せて大丈夫そうだけど…そう言えば、主は何か買うものはないのかい?」

「手入れ用具を買い足したいのですが…石切丸さんと骨喰さんは?」

「そうだねぇ、私はこれといってないのだけど
骨喰君は?」

石切丸さんが骨喰さんに話しを振ると、懐から一枚の紙切れを取り出す。


「洗剤と入浴剤に蚊取り線香…
それから、ふふ。これは粟田口の子らのかな?」

紙切れに書かれてたのは買出しリスト。
石切丸さんが笑ったところからは、スナック菓子の銘柄が書かれていた。

買出しに来る前に、必要なものを聞いてもらっていたのでそれだろう。
中には裁縫用の糸や油揚げなんかも書かれていた。

あとは、鶯丸さんが茶葉が切れたと言っていて
銘柄がよくわからないからついてきてもらっていたんだが…







「…。」





振り返ればあったはずの二人は居らず
骨喰さんと石切丸さんが、代わりに大きく溜息をついてくれた。

















…ちちち、と小鳥がさえずる枝垂れ桜の若葉の下、
良くある臙脂の敷物の敷かれた腰掛けの下で一息つく。

隣では、緑の…なんだっけ。
名前は忘れてしまったけれど、緑の彼は抹茶を嗜んでいた。


「随分と静かなところだねぇ。」

「中々の穴場だろう。
良く前任の主人が連れてきてくれた。」


街から然程離れてもないのに、随分と落ち着いた場所だった。
そうして和んでいると、頼んでいた黒蜜のかかったきな粉餅が品の良い食器に入れられ運ばれてきた。


「ほぉ、きな粉餅か。」

「うん、あの子が食べていたから。」

「意外だな。主は甘味が好きなのか。」

「さぁ、どうだろう。
好んで食べていたのかは、僕にはわからないな。」


これを食べていたのは黒い少年と居た時と
偶に一人で、だ。
だからあの子が自ら好んで食べていたかなんて、わからない。



「まぁ、一度食べてみればわかるんじゃないか。」

「そうかなぁ。
ヒトの好みなんて、刀の僕らにはわからないんじゃない。」


一口食べる。
黒蜜の明確な甘さが、きな粉と餅でぼやける。



「どうだ?」

「うん、おいしいよ。」


おいしい。
でも、やっぱりあの子がどんな気持ちでコレを食べていたのかなんて、これっぽっちもわからない。


甘過ぎる?
それとも甘さが足りない?
もっと食べてみたいのか?





「何かわかったか。」

「うーん…やっぱり良くわかんないや。
ただおいしい。それだけだよ。」


おいしい。
ただそれだけ。

それだけであって、
なんの思い入れも生じない食べ物に
何故あの子は…



「いたぞ、主。」


向こうの角から出てきた白髪の少年。
そのすぐ後からあの子も出てきて、ツカツカと歩いてくる。

あぁ、少し機嫌が悪そうだ。



「好きな所に行くのはいいんですが
黙っていなくならないでくださいよ。」

「あぁ、すまんな。
つい、ここへの道が目に入ってな。」


と、二、三やりとりしているのを横目に最後の一口を食べる。
うん、おいしい。


「…。」

「髭切、そういうのは主に一口やるもんじゃないのか。」


ありゃ、そうなのかい?

思った疑問を口にすれば、やれやれと緑丸が立ち上がる。


「…黒蜜のきな粉餅、ですか?」

「うん、お前が偶に食べていたから、どんなもんかと思ってね。
おいしかったよ。」


そう言うと、しばし考え店の方に入っていく。
どうやら持ち帰りを頼んでるらしい。




「あの反応を見ると、主の好みではないのか。
ならば思い出の品、というところか。」

「あぁ、そういうこと。」



彼女はこれが特別な好きなわけではない。
好きならば、迷わず注文したはずだ。

これを見て、黒い少年との思い出を辿っているだけだ。


そう理解できたのも
食べながら自分も、まだあどけなさが残る彼女と黒い少年の姿を思い出していたから。



過去のことなんて思い出したって、何にも変わりはしないのに。
人間は不毛なことをするもんだなぁ。


人の身を与えられ、疑問は増える一方だった。



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