積もる話し
 



「主殿ー?
鳴狐がお食事をお持ちしましたよー?」


そのよく通る高い声でパチリと目を覚ます。
目に映るのは薄暗い天井だった。

布団から体を起こし、どうぞ。と声を掛けると
鳴狐さんが静かに障子を開ける。


「お加減はどうですか?
よく眠られていたようで。」

「ええ、全く問題はありませんよ。
鳴狐さんとお供さんは、怪我の具合はどうですか?」

「主殿の迅速な治療のおかげでこの通り!」

と、鳴狐さんの代わりにお供の狐が話す。
その話しを聞きながら、起きる前のことを思い出す。

政府への報告書を書いてる途中
鶴丸さんが部屋に来て、その背後ににっこり笑った髭切さんを見たのを最後に私の記憶は終わっている。


「いやぁしかし、あの時の援軍は大変助かりました。
加州殿率いる第二部隊が、バッサバッサ敵を薙ぎ払ってく様は、まさに疾風の如く!」

「そうでしたか。
でも、町の人間に犠牲が出なかったのは
第二部隊が到着するまで、あなた方第一部隊が踏ん張ってくれたお陰です。」


ありがとうございます。

そう言うと、お供の狐はパタパタと尻尾を振る。

「おお、おお、主殿からのお言葉に
鳴狐も大変喜んでおります!」

「そういえば、治療のことですが
また明日から再開しますが、どこか痛むところは?」


負傷者九名、傷の深さも刀種もバラバラのため
流石に短い時間で一人一人完治させることはできなかった。

重傷者を除いてある程度、日常生活に困らないまでは治したつもりだが、痛みの程度は皆それぞれ。
それが心配だった。


「ご心配なく!
主殿のお陰でこの通り不自由ございませんよ!」

「そうですか。
それならよかったです。」

そう言うと、鳴狐さんがお供の狐に視線をやる。
すると、お供の狐はコクコクと頷く。


「ふむふむ、あまり話し込んでは主殿がゆっくりお食事できないと…。
それでは、私達はお暇させていただきましょう。

終わりましたら縁側にでも置いてくだされば、取りに参りますので!」

と、鳴狐さんが立ち上がる。
そうして開けられた障子の向こうは、すっかり夜になっていた。


「…ちゃんと、食べてね。」

パタンと閉まった障子。
小さな言葉だったが、この耳にはしっかりと届いた。









神様は何でもお見通しか…。



ふぅーと、腹から息を吐き出す。
ほぼ一日何も食べてない上に、いつも通り丁寧に作られた食事。

だが、食欲が湧かない。


正直、今回多くの負傷者を出してしまったのは
私の采配ミスだ。
もし、第二部隊を送ることができなければ
誰かが折れるか、部隊の全滅はありえないことではなかった。

そうした後悔や懺悔はあるも
文字通り身を削り、時間遡行軍から歴史を守り通してくれた皆に
"申し訳ない"という言葉は一切出せなかった。

私がそれを伝えてしまえば
それは、彼らに力不足と言うのと同じだ。


彼らはギリギリの中、最大限戦ってくれた。
そして実力が無いわけではない。
謝罪など、彼らのプライドに傷をつけてしまう。


傷だらけの体を見て、何度も出かかった"ごめんなさい"を
何度も呑み込んだ。

煮え切らない思いは、腹の中で溜まるのみ。


「…。」


そういえば、報告書が途中だった。
再び文机に向かい、筆をとった。



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