束の間の一息、暗転
 


傷だらけの俺たちを見て、主はただ

"よくやってくれた"

と、労いの言葉をかけるだけだった。




主の指示を待たず、遡行軍に襲われている見廻りを助けに駆け出した。

俺たちが守るのは歴史だけではない。
そこで生きるべき人間も守る対象だ。


だが、相変わらず形勢は不利なまま
そこにいた人間を逃すので精一杯で、どんどん傷は増えていく。

そんな折、稲妻のように光ったと思えば
気付けば平野が向こうの角まで吹っ飛ばされていた。

見れば敵は槍。
今までにない程の機動力。
そしてどんなに刀を振るおうが、本体にまで届かない程の硬さ。

退くにも退けない。
これはいよいよ不味い。

そう思った時、悪いものは重なるもんで
籠城していた敵部隊も現れ、前も後ろも言わば挟み撃ち状態。

本丸に連絡が取れるカラクリまでは、この敵を討ち倒さなければならない。

誰か一人でも潜り抜ければそれでいい。
捨て身の覚悟を決めたその時、敵と自分たちの間に淡い光が現れる。

それは想定外にも本丸からの援軍だった。


そこからも負傷は増えるも何とか形勢逆転、
全員折れずに本丸に帰還できた。


本丸はというと、既に手入れ部屋は整っており、慌ただしさはなかった。
重傷の平野と同田貫を優先に、着々と手当がなされていく。
俺自身も腑甲斐なくも中傷だった。



「お前で最後だ、獅子王。
主がお待ちだ。」

「…もう軽傷の連中まで終わったのか。」


少しうつらうつらし、長谷部の声で起きれば
いつの間にか朝ぼらけの中だった。


自分の手入れは一番最後に回してもらった。
中傷に太郎太刀がいるから、早くても日がど真ん中に登ったくらいか、再び沈むくらいだと思っていた。


「援軍、助かったぜ。」

「別に。
俺たちを送ったのは主だ。」

と、淡々と返す長谷部に思わず苦笑が溢れる。


「なんだ、あんたも前の主が恋しい口か?」

「無駄口叩いてないで、さっさと手当を受けてこい。
お前が済まないと、主が休めん。」


と、それだけ言い長谷部はその場を離れてしまった。
相変わらず、生真面目な刀だ。


よっこいせ。と、久々に痛む体に力を入れ
素直に手入れ部屋へと向かった。
















「悪かった、主。」

襖を開け、獅子王さんが開口一番そう言ったのがそれだった。
思わずポカンと獅子王さんを見てしまう。

が、応急処置が行われた腕やら脚に巻かれた包帯は
既に茶色くなっている。
それにハッとして、急いで獅子王さんを座らせる。


「平野と同田貫は?」

「隣の部屋で寝てもらっています。
流石に、完治まではいかなかったので。」


そう答えると、そうか。と一言返ってきた。

大雑把に巻かれた包帯を取り、ある程度服を脱いでもらう。
そして刀を受けとり、札を貼れば淡い青色の光と共に修復が進んでいく。


太刀の中でも細身の彼に斬り刻まれたその傷は、とても痛々しかった。
そこに消毒を施していけば、流石に顔を顰める。


「あんた、怒らないんだな。」

「ヤナギさんは、怒ったんですか。」

そう言うと、少しの間があった。


「昔な。まだじぃさんも若い頃だ。
今日みたいに、じぃさんの指示を待たず、俺が突っ込んで重傷を負った。

そしたらじぃさん、カンカンに怒ってな。
暫く出陣させてもらえなかった。」

「あの温厚そうなヤナギさんが、想像つかないですね。」

そう言うと、そうだろう?と肩を揺らした。


「人間の成長は面白いもんだな。

ガキの頃は、俺たちが出陣する度に半ベソになってたのに
最後は俺たちに半ベソになられながら、見送られんだ。」

獅子王さんの言葉に
私がここに初めて来た時の事を思い出す。

皆に囲まれて、この本丸の門を出たヤナギさん。
その最後の後ろ背は、年の割にシャンとしていたものだった。


「泣いてましたよ、ヤナギさんも。」

「まぁな。
だが俺たちに縋りはしなかったさ。」

「旅立つよりも送る側の方が、悲しいものですからね。」

「…あんたは、送る側が多いんだな。」


何も話していないのに、自然と返ってきたその言葉に
なんと返せば良いか分からなかった。
暫く、返す言葉を探す。


「あなた方が送る数に比べれば、大したものじゃないですよ。」

「まぁな。
あの童姿の短刀達でも、数百年は人間見てきてるからな。」


むしろ、俺たちよりも見送ってきた数は多いかもしれねぇ。
と、獅子王さんは襖の向こうの平野君に視線を向けた。


「…そういやあんた、一晩中霊力使いっぱなしだろ。
俺が言えた義理じゃねぇけど、休んだ方がいいんじゃねぇか?」

でかい傷は粗方塞がったし。と、バックリ裂かれてた腕を見せてくる。

確かに傷はほぼほぼ塞がっている。
そして言われて気付いたが、二部隊同時に出陣させたり
長時間治療にあたったりと、かなり体力も気力も消費しているはずなのに
何故かあまり疲労感がない。

強いて言うなら少し眠いくらいだ。


とはいえ、いきなり倒れでもしたら迷惑をかけてしまうだろう。
本当はこれから、途中までしかしていない皆の治療をしようと思ったが、少し休むことにした。










「で?
きみは、筆を走らせながら休むのかい?」


後ろを振り返らずとも、鶴丸さんが冷ややかな視線を向けているのは何となくわかった。

あれから自室に戻ったが、
政府に今回の出陣を報告せねばと筆をとったところ
タイミングよく鶴丸さんが入ってきた。


「鶴丸さんこそ、もう起きて大丈夫なんですか。
あれだけ頭を強く打ってれば、人間ならば記憶喪失や植物人間になっててもおかしくないですよ。」

「はぁ…その話しをされると何も言えなくなるんだがな。」


と、ギシリと胡座でもかいたのか
畳の音がした。


「まぁなんだ。
きみ、今のうちに寝たフリでもしておいた方がいいんじゃないか?」

「…どういうことです?」


と、不穏な言葉に後ろを向けば
鶴丸さんに影が差す。



あぁ、これは…








「おやおや、夜更かししてる悪い子は誰かな?」



夜更かしというより徹夜なんだけども。
それを言葉に出来ず、視界はブラックアウトした。



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