本物よりもそれらしい
 


真夜中。
付喪神といえどもここでは夜は眠るもの。


そんな静寂の中、大きな道場の真ん中で一人正座する。
相変わらず順調に時は過ぎるばかりで、一向に帰る算段はつかない。


私の本体はどうなってるのか。
マダラとの戦いはどうなっているのか。


木の葉は…サスケはどうしているのか。

あの人が守りたいと言ったものを、
何一つ守れないまま、私はここで朽ちていくのか。


ザワリ、と一際大きな風が葉を揺らし、音を鳴らす。
その音で我に返り、深呼吸をする。


再び静寂が戻る。

ここで足踏みしているわけにはいかない。
何か手を打たなければ…



「こんな真夜中に座禅かい?
熱心だねぇ。」

「次郎さんこそ、こんな真夜中まで晩酌ですか?」

と、入り口にもたれかかり、こちらを見ている次郎さんに振り返る。
戦場に行くときの様な派手な格好ではなく、
着流しに、長い髪も降ろし、随分と雰囲気が違う。


「あっはっは、いくら私でもこんな夜中まで飲みやしないさ。
水を飲みに行こうとしたら、辛気臭い風を感じたもんでね。」

辛気臭い風…私が起こしたとでも言うのか。
確かに陰鬱な気分にはなっていたけども。


「悩みがあるなら、この次郎さんに話してみな?
腹ん中に溜めてちゃ、いつか腐っちまうよ。」

と、ドサリと私の隣に胡座をかいて座る。
これは逃げられないなぁと、適当な話のネタを探す。


「言っとくけど、適当に誤魔化そうったって
あたしの耳は欺けないよ?」

「…何故、あなた方は歴史を守るのです?」


一番の悩みではないが、それでもここに来て疑問に思ったことの一つ。
刀の付喪神たる彼等が、何故無条件に人に手を貸すのか。

それは物の性であるのは確かだが、すべての歴史が皆に都合が良いわけではない。
だからこそ、歴史修正主義者というのが現れる。


「それは、主にも修正したいものがあるってことかい?」

「そうですね。
やり直したいことがあり過ぎて、困る程度には。」


本当に、やり直すにもどこからやり直せばいいのかわからないくらいに後悔だらけだ。

どれを選んでも正しい事なんてない。
どう足掻いたって、彼を生きて幸せにすることなんてきっと出来なかったのだろう。



「そう…若いのに、随分と腹に抱え込んでるものが多いみたいだね。」

次郎さんも歴史の長い刀剣で、今は御神刀として神社に祀られてるらしい。
普通の刀剣よりも神に近い刀剣だからか、見透かされてる様だ。


「そういえば、なんであたしらが歴史を守るか答えてなかったね。

見ての通り、刀といえども人の形を与えられれば性格も志もまさに十人十色で、歴史を守る理由もまちまちさ。

でも、根本にあるのは
人がつくったもの、大事にしてきたものを守りたいって気持ちなんじゃないか?」


守りたい…確かに刀は、人が何かを守るために作り出した武器だ。
その思いが、刀剣男士としてカタチになったということか。


「色々考えることもあるんだろうけど、兎に角健康が一番!
それには睡眠と食事は十分摂ること。

ほら、サッサと寝な!」


と、有無を言わさず体を猫の様に持ち上げられ、すとんと両足が床に着地する。
改めて、身長差が凄い。


「あたしらは手入れすりゃ治るけど、人間様はそうはいかないんだからね。」

と、背に手を添えられ道場から追い出される。


仕方なく、自室へと向かう。
チラリ、と振り向けば次郎さんが道場の入り口で仁王立ちしてた。

これは明日も監視が入りそうだ。
暫く真夜中の道場に寄り付くのはやめようと、心に決めた。










翌朝、食事当番だろう人の起きている気配で目を覚ます。
いつも勝手に食事が出てくるが、この人数分作るのは大変に決まっている。
寝巻きから着替え、部屋を出る。

そして厨に着き、入り口の暖簾をそっと手で避け中を見てみる。


「蛍丸君、畑からキャベツを2玉取ってきてもらえるかい?
あとカブを5個と菜の花も10束程。」

「ほーい。」

と、入り口に向かってきた蛍丸君と鉢合わせする。


「わ、主いつからいたの?
おはよー。」

「…おはようございます。」

「主?ゴメンね気付かなくて。
おはよう。今支度してるから、ちょっと待っててね。」

と、朝から爽やかな燭台切さんが手際よく準備を進めている。
これは、下手に台所は手伝わない方がいいなと思い
蛍丸君を手伝おうと畑に行く順路に足を向ける。


「主、部屋逆じゃない?」

「野菜運ぶの手伝おうと思いまして。」

と言うと、蛍丸君はにんまりと笑顔を浮かべる。


そして納屋に行くと、軍手と大きめのハサミを渡される。
蛍丸君はと言うと、その体躯に似合わずクワと収穫包丁と大きめの野菜籠を軽々と持ち、スタスタと歩く。

そして菜の花畑の近くに籠を置き、


「主は菜の花取ってね。」

と、言う間に隣のカブ畑を掘り起こしていく。
力仕事を私がしようと思ったが、この子は大太刀だったと、思い出した。

そういえば、手伝うと言っても畑仕事なんてしたことがなければ、農具なんて一度も触ったことがない。

暫くハサミと菜の花を交互に見ていたが、取り敢えず切れば良いだろうと、菜の花を1束、根元の部分にハサミを入れようとした。


「わー、主、根元はダメだよ。」

然程大きくない蛍丸君の声に、思わずビクリと肩を揺らしてしまった。
蛍丸君を見ると何やらジェスチャーしている。


「上からこの位の部分だけハサミで取るんだよ。
あと、蕾が膨らんでるやつだけね。」

と、指示してくれる蛍丸君に対して
確認の意を込めて、蕾が膨らんでる茎を持ちハサミを当てると
うんうんと、首を縦に振ってくれる。

これは食事の準備以前に、畑仕事を覚えた方が良いかもしれない。
畑仕事をしている人の姿は何度か見たことはあるが
実際やってみると難しいものだ。

ついでにキャベツの収穫の仕方も教えてもらい、取った野菜を持って厨に戻ると、出汁を取っているのか、和の匂いが立ち込めていた。


「ありがとう…って、主も手伝ってくれたのかい?」

「教えてもらうばかりで、手伝いに全然ならなかったですが。」

と言うと、燭台切さんは
最初は僕たちもそうだったよ。と笑ってくれた。



そうして瞬く間に料理ができると、見計らった様に短刀の子らが現れる。


「主君、おはようございます!」

「もしかして、主さんが作ってくれたんですか?」

と、キラキラとした眼差しに罪悪感が生まれるが、正直に菜の花取っただけだと伝える。


「それでも大将の気持ちが入ってんだから、今日の朝餉はまた格別だろうさ。」

なんてサラリと言ってのける薬研君に感心してる間に、短刀達がタッタと善を運んでいく。


「ここは配膳のプロ達に任せて、広間に行こうか。」

と、燭台切さんに促され厨を後にする。



そうして手を合わせ、食べる様は
本物の人間よりも人間らしいと思った。



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