知らぬが何とやら
 


「第二十一番部隊、全刀剣戦線崩壊!
第九番部隊の勝利!!」


審判が高らかに上げる勝敗。
想定外の結果だった。


隣の審神者を見れば、その拳は固く握られている。


「流石はヤナギさんの刀剣。
皆強者揃いだ。」

と、にこやかに笑顔を向けてくるが、その心は隠し切れていない。
それに一礼し、控え席から立つ。





「あれでも頑張って隠してるつもりなのだろうけど…嫉妬は良くないよね。」

少し離れた後、共に控えていた髭切さんが口を開く。


「ほんとほんと!
確かに皆ヤナギさんの喚んだ刀だけど、練度も刀種も相手の方が有利だったのにね。

それで負けるのは…」

「だからこそ余計に、なんでしょう。
ましてや新参者の審神者…経験も向こうが勝ってるはずですからね。」


やってしまった。
新参者は新参者らしく、今回は目立たない様にしようと思っていたのに
そこそこ経歴の長い本丸に完勝してしまった。

相手は大太刀三振りに太刀二振り、打刀一振りの部隊で、言うなれば相手の本丸のエース部隊だったのだ。

絶対色んな本丸に目をつけられた。
嬉しいはずの勝ち星に、気持ちは沈む。

そして歌仙さん達を迎えに行くと、堀川さんが手を振ってくれた。


「主さん!凄いよ今日、何時もより凄く調子が良いんだ!」

「確かに、まさか大太刀の刀身を受けられるなんて思ってもなかったよ。」

と、堀川さんと大和守さんが嬉しそうに感想を言ってくれる。
そうなのか、今日調子がよかったのか…


「それは主の霊力のおかげだろうね。
随分と力強い"気"が送られてきてたから。」

「え、私…?」

石切丸さんの想定外の言葉に思わず呆ける。


「主さん、自覚なかったの?
演習中、かなり集中して見てたじゃない。」

乱君に言われ、そういえばそうだと思い当たるも
真剣に見てただけで力を送ってしまうなんて如何なものなのか。


「審神者の霊力は、僕たち刀剣や、本丸の力になるからね。

君は元々霊力が強いみたいだから、ちょっとしたことで、僕たちに影響を与えてしまうんだよ。」

「まぁ、もう手遅れなわけだし、このまま一番狙っちゃえばいいんじゃない?」


歌仙さんと髭切さんの言葉に、演習が終わったら速攻帰ろうと心に決めた。










そうして髭切さんの予告通り一番になるかと思いきや、流石にそうも行かず、最後にあたった部隊に負けた。(演習は幾つかに本丸を分けて行うため、当たってない本丸も沢山ある)

ヤナギさんと同じ、古参の本丸だったため
練度も経験値も他と群を抜いていた。

というか初回で、しかも練習がてらに組んだ部隊で一番を取ってしまったら、それはそれでどうなのだ。
そんな不安も抱えていたので、自分より強い審神者がいることに場違いにも安心した。


「あのヤナギさんの後を継いだとは言え、これだけ他人のものだった刀剣を扱えるとはねぇ。
就任して浅いとは思えないわ、久々に楽しかったわ。」

と、上品な笑みを浮かべる老女に一礼をし、他の時と同じように歌仙さんたちを迎えに行き、そそくさと控え室に戻る。

そうして他のグループが終わるまで、控え室のモニターで他の演習の様子を見る。
確かに、基本的に皆大太刀や太刀が中心の編成だ。


「そんなに気になんなら、直接見に行きゃいいんじゃねーか?」

「…落ち着いて見たいので。」


自意識過剰かもしれないが、外に出れば絡まれるのは明白。
戦を有利に進めるなら、人との繋がりは必要なのだろうがここでは遠慮願いたい。

そんな私の態度に和泉守さんは、さして興味を持つこともなく同じ様にモニターを見る。


「確かに主は目立つからね。
一人、熱心に主を見ていたお嬢さんがいるくらいだしね。」

石切丸さんの言葉に、何となく朝方迷子になっていたアヤメという子供のことだろうと見当付いた。
そこでふと、気になることが頭に浮かんだ。


「審神者は、どうやって任命されてるんです?」

この際、私の様に魂だけでこの場所にどうやって存在しているのかなどは聞かないこととする。

一体どこから人を引っ張ってきているのか。
何故あんな年端もいかない子供に任せるのか。

それが気になった。


「この戦いも気付けば長期戦になっているからね。
最近は審神者の家系も出来ているみたいだよ。
ああいう幼子はそこから排出されてるんだろう。」

「ヤナギのじぃさんは、元々親父さんが神主で
そういう縁で審神者になったらしいけどな。」

「まぁ、君はかなり特殊な例だけど
同じ様な境遇の審神者も他にいると思うよ。」


石切丸さん、和泉守さん、歌仙さんの言葉に静かに耳を傾ける。

本丸のある場所は、歴史に記録されない場所と最初に言っていた。
ならばここに連れてこられた人達の歴史は、審神者になったその時から消えているのか。
もしくは最初から無かったことになっているのか。
それこそ歴史を好き勝手に変えていることにならないのか。

だとすれば、ヤナギさんは一体どこに帰ったというのか。


「…これだけ審神者がいても戦いが終わらないということは、
相手が相当な数であることはわかりました。」


前からあった疑問はやはり、口に出すべきではないと改めて思った。

そして最後の演習が終わり、政府からの有難いお言葉を聞き、
やはりそそくさと自分の本丸へと帰還した。













帰れば夕暮れ時。
食事の支度がされているのか、芳ばしい香りが鼻をくすぐる。

庭先ではすっかり乾いた洗濯物を
御手杵さんと鳴狐さん、加州さんが大きな編み籠に取り込んでいた。


「おや、お帰りなさいませ!
主殿、皆様!」

「おお、帰ってきたか。」

「お帰り主!」

と、口々に迎えてくれる。
それにペコリと一礼すると、乱君が鳴狐さんの元へ駆け寄る。


「叔父様聞いて!
今日ね、主さんのお陰で皆凄かったんだよ!」

「やや、その様子だと本日の戦績はさぞかし良かったのでしょうねぇ。」

と、嬉々として話す乱君に鳴狐さんの目元が柔らかくなる。
確か鳴狐さんも粟田口派と聞くが、"叔父様"ということは兄弟ではなく親戚か何かなのか。
この世界の刀剣は奥が深い。


「あ、皆さんお帰りの様ですね!
丁度夕餉の支度が出来ましたので、広間にお越しください。」

と、前田君と獅子王さんが丁度善を持って廊下を歩いて行く。


腹減ったー。と言いながら広間に向かう和泉守さんと御手杵さんを、
先に手を洗いに行くよ。と堀川さんが洗い場に引っ張って行く。



「ほら、主も手洗わないと堀川に小言言われるよ。」

と、大和守さんに背を押され
堀川さん達の後に続く。




こんな夕時はいつ振りだったか。

確かにあったその記憶に髭切さんを見れば
何処か懐かしいその表情に、視線を直ぐに夕暮れに向けた。



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