その手に感じた脆さ
 


時というものは、気づけば過ぎているものだ。










審神者業に慣れるべく、日々詰め込まれる物事を消化していけば
いつの間にやら一週間経っていた。


それにギョッとし、元いた世界に戻る方法を管狐を問い詰める。
だがしかし、当然のごとく管狐がそんな方法を知るはずもなく


「すっかり審神者が板につきましたね。」


ここまで出来る者もなかなかいないと、天職ではないかと
手放しに褒めらてしまう始末だ。
それに頭痛を覚える。


一週間、里はどうなっているのか。
うちはマダラにより、侵略されているかもしれない。
そうなったらカカシ兄さんも…


というより、私は何故真面目に審神者という職に取り組んでいるのか。
出来ない振りでもして皆に呆れられればお役御免ななれるというのに。


「はぁ…」

「おいおい、溜息つくならそんなもんやらなきゃいいんじゃないかい?」


パリン、と小気味好く
恐らく匂いからして海老せんだろう菓子を食しながら、鶴丸さんが呆れ声で尤もなことを言う。


「そうなんだが…わかってるんだが、どうしてだか
目の前に置かれると放置出来ないんですよね。」

手のひらで額を抱えるも、墨で書かれた文字を追う。



「呪いでもかけられてるのだろうか。」

「ある意味呪いかもしれんな。」


否定される前提で零した言葉を、
さも当然のように肯定され、思わず鶴丸さんを見る。


「人間誰しも、この世に生を受けた時から
死ぬまで逃れられない呪いをかけられているのさ。」

「…生真面目さを授けられた覚えはないんですがね。」


鶴丸さんが言ってるのは人が持って生まれた性格のことだろう。
確かに死ぬまで変わらないというけども。


「君も大概生真面目さ。
そういう所が良く似ている。」

「…ところで、鶴丸さんはよくここに居ますが退屈じゃないんですか。」


このまま話していればイタチさんの話になりそうで、何となく話題を逸らす。
木の葉を出てからのイタチさんとの思い出を共有できるのは、鶴丸さんしかいないのだが話せば会いたくなってしまう。
叶わないことを考えるのはどうにも嫌いなのだ。


「こうしてきみと話せるんだ。退屈なんてしないさ。
刀に戻れば文字通り、"物言わぬ"だからな。
まぁ、強いて言うなら…」


鶴丸さんの手がこちらに伸びる。
資料を持つ私の手首を掴み、自分の方へと引き寄せる。
そうして少しいたずら気に金の瞳が細まる。



「きみのこの手が紙ペラばかり掴むのは、いい気はしないな。」


遠回しに戦に出たいと言っているのか
この世界に馴染みすぎるなと忠告しているのか

鶴丸さんの瞳を見ながら考えていると
パッと手首を離される。

そして徐ろに立ち上がり、襖に手をかける。


「そう言えば光忠が稽古をつけてくれると言っていた。
暇ならきみも見に来てくれよ。」


そう言い残し、ひらりと黒い上着の袖をはためかせ部屋から出て行ってしまった。



掴まれていた手首を見やる。
少し冷たい指先は、どこか記憶にある温度だった。

















「どうしたの鶴さん、随分気が散ってるみたいだけど。」

よく知ってるはずの、だが覚えのない真っ黒な衣を纏う旧知の彼にそう言葉を投げれば、罰の悪そうな顔をする。
だが、すぐにその顔から表情が消える。


「聞いてくれるか光忠。」


真顔でそう切り出され、何か良くないことでもあったのかと思い
次の言葉を心の中で構える。





「知ってるか。
おなごの肌は紙のように柔いんだ。」

「…そろそろ夕飯の仕度をしなきゃ。」


木刀を片そうとすれば、待った待ったと鶴さんに手首を掴まれる。

何を言うかと思えば。
腕力は僕の方が強いから、振り解こうと思えばできるけどもあまりにも必死なため躊躇った。
というか、



「主に触ったの?」

「おいおい、誤解を生む言い方はよせ。」


ヘラヘラと笑いながら弁解されても説得力はない。
そして僕の手首をニギニギと確かめるように握る。


「鶴さん知ってる?
現代ではこういうの、セクハラって言うんだよ。」

「せくはら…?
光忠はハイカラな言葉をよく知ってるなぁ。
それにしても、男と女でこうも造りが違うもんなんだな。」


飽きたのか、パッと手を離し鶴さんは木刀を仕舞いにスタスタと歩き出す。


「なぁ光忠、俺は驚いたのさ。

あんな柔っこい肌でなまえは俺を振り回してたんだ。
男の硬い肉も、太い骨ごとスッパリ斬り倒してたんだ、あの細腕で。」


世界は違うといえども、どんな時代でも女人が重たい鉛の塊を振り回してたなんて滅多に聞かない。
主は特殊な人間だ。


「鶴さんは、主に使ってもらいたいの?」

人間に使ってもらうことこそ、物である僕達の本来の姿だ。
主に振るってもらいたいと思うのは至極当然だ。



「使ってもらいたい…うん、それも間違いじゃない。
なまえに使われるのは、良い意味で気が休まらんからな。

だがな光忠、俺はそれよりも共に戦場を駆け抜けたいのさ。」


知ってるか、戦う彼女はとても美しい眼をするんだ。


そう話す鶴さんの瞳は一段と輝いている。
そういえば髭切さんも主の話し…殊更戦の話しをする時は眼が輝く。

彼女は刀を活かすのが上手いらしい。


「審神者が戦場に出ることはないからね、見られないのが残念だよ。

それに…鶴さんがそんなに言うなら僕も一度彼女に使われてみたいな。」


そう言うと、ピタリと鶴さんの表情が固まる。
そうして、


そういうのセクハラって言うんじゃないか。


と笑って茶化されるが、何となくその言葉の真意がわかって、主に興味が湧いたのは口外しないでおこうと心に決めた。



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