季節は変わる
 



静かに、そして粛然とした空間。
性別も顔も分からぬような装いに面をつけた複数のヒト。
忍の里で、任務を受ける時の空気感にやや似ている。


"歴史修正を必ず阻止しろ。"


色々話しはあったが、"せいふ"が言ったのはこの一言だった。












門兵が重厚な門を開ければ、
松明で照らされた道が浮き彫りになる。

来るときは確か門を十ほど潜ったか。
あと九もの門を抜けなければいけない。
思った以上に厳重に護りが固められていて感心する。



今日は、政府とやらに呼び出され
この戦いの経緯や本丸の目的、審神者が遂行する任務、その他諸々の諸注意の話をされた。

だが、意外にもこちらの素性は聞かれず
何故かと帰りにこんのすけにそれを問えば

「わたしのお墨付きですから。」

と、何とも曖昧な答えが返ってきた。


この管狐は、政府が造ったものなのだから
管狐が選ぶことは政府の意思に違いないのだろうが、審神者の選定基準が些か適当ではなかろうか。

素性も知れぬ、別世界の人間を重要な極秘任務に就かせるなんて…


「どうかされました?」

とことこと、小さな歩幅で歩きながらこんのすけが此方を見上げ問うてくる。



「いや、今日は疲れたと、そう思っただけです。」


自問自答の末に思い浮かんだ疑念は、言うべきではないと直様頭の片隅に仕舞い込んだ。

最後の門を抜ければ、視界は一気に広がり
本丸を大きくしたような建物に繋がる。

そうしてある一室に行けば、付き添いで来てくれた加州さんがパッと笑顔で迎えてくれる。


「どうだった?
暗闇でお面に囲まれて気味が悪いでしょ。」

「加州さんは、政府と会ったことがあるんですか?」


この待合の場に刀剣は置いておくようにと言われたので、政府と会う時はいつも審神者一人なのだと思っていたが、加州さんは政府を知っている。

今日が特例だったのか?


「たまーにね。
近侍も一緒に連れて来いって言う時があるんだよ。
どういう基準かはわかんないけど。」

「そうなんですか…」

今日の話しは刀剣達に聞かれるとまずいものだったのか、政府の意図はよくわからないが加州さんが気にした様ではないので、これ以上の政府の話題はふらないでおく。


「それでは、本丸への門を開けますね。
お気をつけてお帰りください。」


そう言いこんのすけがトン、と一飛びすると来た時と同じ様に鈍色に光る陣が現れる。
それを踏めば、浮遊感と共に眩い光に包まれ
足が地に着いた感覚に目を開ければ、覚えのある本丸に着いていた。


「おお、戻ってきたな!
意外と早かったな。」

そう言い最初に出迎えてくれたのは鶴丸さんだった。


「何を言う、まだかまだかと先程まで落ち着きがなかったじゃないか。」

縁側でお茶を啜りながら、そう言う鶯丸さんに
そういうのは言わないもんだろう。と鶴丸さんは苦笑しながら言う。

そうしているうちに、パタパタと足音が近づいてくる。


「お帰りなさいませ、主殿、加州殿。」

「お疲れでしょう、お部屋にお茶をお持ちしますね。」

そう律儀に出迎えてくれたのは、短刀の平野君と前田君だった。



「ありがとうございます。」

そう言うと、パタパタと二人は厨房かに向かって小走りで走って行った。
一国の城やら裕福な屋敷に任務で行くと、ああいう子どもがいたなぁ。


「何だかいい所の屋敷に嫁いだみたいだ…」

「本当に嫁いでくれても良いんだぞ?」

思わず呟くと、にっこりと
湯呑みを片手に鶯丸さんが笑う。
片目が髪で隠れてるからか、独特の色気がある。


「それはご遠慮します。」

「ははは、即答か。」

と、別段気にしなさそうに笑い茶を啜る。


「あんまりここで長話ししてちゃ、前田達が茶菓子を渡しそびれてしまうんじゃないかい?」

「あぁ、そうですね。
では。」

と、鶴丸さんに促され自室へと向かう。
少しの間、鶯丸さんと加州さんの笑い声が耳に届いた。




















「そこまで笑わんでも良いだろう。」

「いやいや悪い、お前がいつ痺れを切らすかと思っていたのだが
予想以上に早かったもんだからな。」

そう言うと、ほんの少し不満気な表情だったのが
ため息と共に諦め顔になる。


「にしても鶴丸さん、ちょっと心配し過ぎ。
もう少し俺たちを信用してくれてもいいじゃんか。」

「確かに君は大丈夫だろうが、ここには厄介な爺共がいるだろ。
そこの鶯みたいに。」

「うん?俺か?
俺は何処ぞの天下五剣のように、主の寝込みを覗きに行こうとなんてしないぞ。」


そう言うと、鶴丸と加州が真顔になる。
そうして加州が急に距離を詰めてくる。


「ちょっと待って何それいつの話。
主来てまだ二夜しか経ってないじゃん?!」

「まぁ未遂も未遂だからな。
昨日の夜に向かおうと、主の部屋の廊下を曲がろうとしたら、獅子に出くわしたらしい。」

そう言うと加州は安堵の表情を浮かべるが、
鶴丸は真顔のままだった。
そして


「なまえの部屋の隣は確か空室だったな?」

「あそこは手入れ部屋だ。
お前に寝られると手当ができん。」

そう言ってもまだ諦めがつかないのか、真顔のまま手を顎に添え思案する。

これは思っていた以上に過保護らしい。
言わない方がよかったか。
暫くして、名案が浮かんだとばかりに手を打つ。


「俺がなまえと寝ればいいのか!」

「却下。」

「何でだ!
俺以上になまえにとって安全と信頼の実績のある刀はいないだろう?!」

加州の斬り捨てに鶴丸は反論する。


「刀の姿ならまだしも、今は男の形をしてるんだよ?
主が落ち着いて寝れないでしょ。」

「確かに…それはそうだが…
だがこのままだとなまえの身に危険が…」

と、うんうんと大の男が頭を抱える。

まだ三日目、力量を全てわかったわけではないが、あの主がそう簡単に手篭められるとも思えんが。

と言っても、こいつは頭を抱えたままだろう。
そろそろ茶も切れた。
この場をお開きにしたい。


「そんなに心配なら短刀達に添い寝してもらえば良いだろう。
あの子らの性分にも合う。」


その言葉に鶴丸の顔が徐々に明るくなる。
そうして、粟田口の子らに相談しようと
意気揚々とその場を去って行った。





「…あの鶴丸さんが、こんなに心配性だなんてね。」

「それだけ主に思い入れがあるんだろう。
それより、茶が切れた。茶葉と湯を持ってきてくれないか。」

そう頼むと、俺はアンタの近侍じゃないんだからね。
と言いながらも、厨房に向かって行った。




ここには、良くも悪くも平行線な日常に飽きた神が集まっている。
あの主は図らずとも、さながら春一番のような新たな風をこの本丸に吹き込んでしまった。


さて、どうなることやら。



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