人と刀と
 



「あーるーじーさんっ。
どーしたの?」

男士とは思えぬ丸い瞳が私を覗き込む。
淡い橙と青い瞳が相まって、外国の人形のようだ。


「なにか、おかしいことでもしていましたか?」

「っもー!そんな畏まった言葉遣いじゃなくて良いって言ってるでしょー?」


乱君だけではない、他の刀剣達にもそう言われるが
急に直せるものではない。

そんな私に乱君は頬を膨らませるが、次第にじーっと私を見つめる。
こんな子供の形でも神様、なにか見えるのだろうか。


「主さんは、この場所は嫌い?」

「…嫌いじゃないです。ただ、少し落ち着かない。」


あるのは焦り。
こうしてる間にも元いた世界がどうなっているのか。


とん、と乱君が隣に座る。


「髭切さんと鶴丸さんを…刀を握りたいの?」

その言葉に僅かながら驚く。


この世界にも戦はある。
だが、自分は戦えない。戦ってはいけない。
ただ安全な場所に居ることしか許されない歯痒さがあった。

それを見透かされていた。


「流石は神様。
そこまでお見通しなんですね。」

「だって主さん、わかりやすいんだもん。
いつも腰のあたりに手を添えようとするから。」

クスクスと可笑しそうに笑う。
確かにそれはわかりやすいが、そんな所作まで見られているのだ。


「そうだ!だったら僕にお稽古つけてよ。」


ぴょん、と縁側から飛び降りヒラリとスカートを舞わす。
所作も全て可憐な少女そのもの、なのに男だ。


「稽古と言っても、刀の付喪神の貴方達には遠く及びませんよ。」

それに加え、ここでは忍術が…チャクラの概念が無くなってしまってるのだ。(代わりに霊力というものがあるけども)
無力な人間の自分は、到底戦場に出れるものではないことをここ数日で理解した。


「またまたぁ、謙遜しちゃってぇ。
主さん、元の世界じゃ負けなしなんでしょ?
鶴丸さんから聞いたよ。」

負けなしなんて、そんな事実はない。
あの御刀様は有る事無い事言ってるんじゃなかろうか。


相変わらず腰を上げない私に痺れを切らしたのか、乱君が私の手を握り、よいしょっ。と言う軽い掛け声と共に引っ張る。


その風貌と軽い声に、私を動かすことは出来ないだろうと思っていたのが甘かった。

とん…と、ものの見事に縁側から離れ
私より少し小さい彼は満足気に笑みを浮かべる。

そうしてあれよあれよと道場に連れられれば、ちょうど獅子王さんと薬研君が手合わせしてるところだった。


「お、大将。
こんな暑苦しいところにようこそ。
俺らに何か用かい?」

直ぐに気付いた薬研君が、にかりと笑みを浮かべる。


「主さんはねー、僕にお稽古つけてくれるんだよ!」

私に腕を絡ませながら、乱君は得意気にそう言う。
それに薬研君は少しばかり目を見開く。


「鶴の旦那がふれ回ってたやつか。
人に刀が稽古つけてもらうなんてそうそうねぇわな。」

と、薬研君は愉快そうに笑うが獅子王さんはほんの少し難しそうな顔をしている。


「大丈夫だよ、獅子王さん!
主さんならきっと手加減してくれるし、それに…僕もみんなと戦いたいんだ。」


だから、いいでしょ?
と乱君は獅子王さんに懇願する。


「…わかった。今の主はこの人だ。
主の意向には従うさ。」

一応見ててやってくれ、薬研。
と、言葉を残し獅子王さんは道場を出て行った。



「…すまんな、大将。
獅子王の旦那は悪気がある訳でも、大将に不満がある訳でもねぇんだ。」

「…ここの刀剣の何体かは、全く練度を上げていない。
本丸の記録を見れば、最近新しく来たもの、もしくは…


戦場で折れたものだ。」


シーン…と道場を沈黙が支配する。
そうして薬研君が、苦笑しながら口を開く。


「そこまで調べてんなら、黙り決め込むこともないな。

前の主はとても心根の優しい人間でな。
小さい頃から審神者をやってて、俺たちにも人間と同じ様に接してくれていた。」

長年家族同様に暮らしてきたのだ。
審神者を引退し、刀剣達と離れるのはさぞ心を痛めただろう。


「本当は、初めて刀が折れるのを目の当たりにした時から、俺たちを戦場に出したくなかったんだろう。

だが、それじゃあ本丸を維持することも、審神者を務めることも出来ない。
折れた刀の2本目が来たら、一切戦場に出させない。
それが心を保つ苦肉の策だったんだろうな。」

と、薬研君は少し懐かしむ様に話す。
既に同じ刀剣が居ても、鍛刀や戦場で見つけて同じものを所持する事も可能らしい。
だから、折れてもまた同じ刀剣が現れる事だってあるのだ。


「で、獅子王の旦那は前の主が自らの手で鍛刀し、この本丸に3番目に来た太刀でな。
ずーっと傍に居た。
だからまだ、心の整理が出来てないんだろう。」


1番は初期刀の加州清光
2番は初めて鍛刀された目の前に居る薬研君だそうだ。


「当然でしょうね。
得体の知れない人間を、今日から主だと認める事は至極困難なことです。」


そう言うと薬研君はまた笑う。
そうして持っていた木刀を私に渡す。



「小難しい話はここまでだ。
乱の奴が暇を持て余しちまってる。

さて…お手並み拝見といきますか、たーいしょ。」



刀よりは軽く、それでも使い熟された木刀は
この本丸の歴史を染み込んでるようで、ズシリと重かった。



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