賑やかな場所
ほんの少し、まだ収まらない心臓の鼓動を抑えるように胸の辺りに手を翳す。
危ない危ない。
年甲斐もなく、ついはしゃいで余計なことまで口に出すとこだった。
とは言うものの、まだ興奮冷めやらぬ。というところか。
右手にある重みにやはり、今一度見せに行きたくなってしまう。
他にも何か見せてやれば、少しはあの無表情を崩せるだろうか。
それともあの方の話しをすれば、あの時のように笑みの一つでも見せて…
「…中間報告も大事だろう?
そんな目で見るなよ、宗三さんよ。」
「人が仕事を教えているというのに、仕事を放り出して主人の所に行くなんて、良いご身分ですね鶴丸国永さん?」
ニコリと、慣れた冷ややかな笑みを浮かべ、宗三左文字が廊下の曲がり角から丁度出てきた。
ほんの少し、この刀とは遠い昔に面識があるが相変わらず湿っぽい気を纏っている。
「すまんすまん。
初めて触ったもんでな、年甲斐もなくはしゃいでしまった。今から戻るさ。」
「貴方はいつになったら、年相応の言動を取れるようになるのでしょうね。
畑仕事はもう終わりましたので、僕はこれで失礼しますよ。」
その手に持ってる野菜は台所に置いててくださいね。
そんな言葉と共に、俺の横を通り過ぎ、宗三は何処かへ行ってしまった。
「つまらない奴だな。」
ぽろりと、そんな本音が口から零れてしまった。
「立派なキャベツですな。」
内心びくりとしながら、表情を変えず後ろを振り向けば
軍服姿の青い髪の青年…一期一振がやんわりとした笑みを浮かべ立っていた。
「君、もう戻ってきたのか。」
「えぇ、主殿の采配のおかげで。
今から報告に参りますが、鶴丸殿は?」
「あぁ…俺も行こうか。」
俺も戦に出るかはわからんが、共に聞いておいた方がいいだろう。
一期と並んで再びなまえの部屋に向かう。
ほんの少し、慣れた戦さ場のにおいがする。
「それはそうと、そのまま主殿の部屋に入るおつもりで?」
そう、一期は俺の腕の中にある緑の塊を見て苦笑いする。
台所に置いてこいと、宗三に言われたが…
「急ぎで使うこともないだろう。
あとでいいさ。」
そうですか。
と一期はさして気にすることもなく、再び前を向く。
そうしてなまえの部屋に近づけば、何やらワイワイと賑やかな声が聞こえる。
大方、一期と戦に出ていた加州や鯰尾辺りだろう。
一期を見やれば同じ事を考えていたのか。
ほんの少し苦笑し、
「あの子らは、いささか人懐こ過ぎですな。」
と零した。
「まぁ、賑やかな方がいいだろう。」
元の場所に戻りたくなくなるのは困るが。
という後半の言葉は今度こそ呑み込んだ。
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