物思い
 



−−−"歴史修正主義者との交戦が2戦。
負傷者はなく、問題なく進軍できております。"−−−

「その様ですね。
引き続き、よろしくお願いします。」


和室にて、この情景に似合わない戦場の景色が目の前に広がる。



−−−"え、もしかして俺らの姿見えてる?!
おーい!!ある…"−−−

−−−"鯰尾、少し落ち着きなさい!
申し訳ございません、主殿。
戦闘中は真面目に敵と相対しております故、ご心配なさらず…"−−−

−−−"え、俺らの姿見えてんの?
やば、俺汚れてない?可愛い?"−−−


と、ソワソワと落ち着かない一部の面子に
歌仙さんが思わず額に手を当てるのが見えた。

騒げるほどの余裕があるのは少し安心。
反面少しの心配も過るのは勿論だが、彼らは私が来る前から戦い続けてきた付喪神。
要らぬ心配というところだろう。


「では、また通信機の設置が完了次第連絡をお願い致します。」

−−−"承知いたしました。"−−−


一期さんがお辞儀をしたのを最後に、プツリと鏡に映った映像は事切れた。


「ふぅ…。」

「へぇー、あるじさまはすごいのですね。
こんなにせんめいに、あちらのせかいをうつせるなんて!」

ひょい、と今剣君が膝の上に乗り出してくる。
そしてその紅の丸い目で、私を見る。


「でも、むりはきんもつですよ!
このカラクリをつかうと、れいりょくもへっちゃいますからね。」

「そうみたいですね、気をつけます。」


確かに、ほんの僅かの時間の筈だったが
チャクラを消費した時の感覚に似た疲労感がある。

突然、ぎゅっと腰の辺りに圧迫感を感じる。
見れば今剣君が腰に抱きついていた。



「…どうか、しましたか。」

「ふふふ〜、あるじさまをじゅうでんしてあげてるんですよ!
どうですか?げんきになりましたか?」


あぁ、確かにこれをいやし系というのならそうなのだろう。
返事の代わりにそっと髪を梳けば、嬉しそうに擦り寄ってくる。

サスケは、こんな風に甘えてくることはなかったからなぁ…


しかし、どうして会って間もない私を主と認め、こんな風に接してくるのか。
そこは腑に落ちないが、それが刀の性質なのだと納得するしかないのかもしれない。

特に短刀の付喪神は、こうしてスキンシップを取りたがる質のものが多い。
それは懐刀所以なのか。


そういえば、畑作業の様子も見に行かねば。
そう思った丁度その時、ドタドタと廊下を走る音に気づく。



「おい見ろなまえ!
こんなに大きなキャベツが取れたぞ!」

そう言ってスパンと障子を開けて現れたのは、案の定鶴丸さんだった。
そうしてその両手には確かに大きなキャベツが抱えられていた。


「鶴丸!
あるじさまのおへやですよ!」

と、今剣君が嗜めると鶴丸さんは、すまんすまん。と言いながら遠慮なく部屋に入ってくる。
それを見て今剣君は呆れたのか、盛大に溜息をつく。


「見てみろ、これを刀が作ったんだ。
そこらの百姓より上手いと思わないか?!」

「確かに、これは立派なものですね。」


そうか、人に振るわれるだけだったモノである彼らが作ったのか。
そう言われると何とも妙なものだ。


「だからといって、もってくることはないでしょう。
どうするつもりなのですか、それ。」

「そうさなぁ、千切りにでもすればあの方も喜んで…」


ぴた、と鶴丸さんの口が止まる。
それを今剣君が不思議そうに見る。


「鶴丸…?」

「おっと、そろそろ戻らないと宗三の奴に小言を言われるな。」


じゃ、と颯爽と部屋を出て行く鶴丸さん。
あっちに来たりこっちに来たりと、何とも忙しいお刀様だ。



「ねぇあるじさま。」

「何でしょう。」

「あの鶴丸は、やはりぼくたちのしる鶴丸ではないのでしょうか。」


そう言いながら今剣君はひょいと膝から退き、トトト、と縁側へと歩いていく。


「というと?」

「鶴丸というつくもかみは、あたまだけでなく、ぜんしんまっしろなのですよ。
なのにあの鶴丸のしょうぞくは、まっくろです。」


あぁ、それは今の鞘が真っ黒だからか。
本当の鞘の姿は知らないが、きっと真っ白なものだったのだろう。


「あれじゃつるというより、まるで…」





バサバサと、庭の竹藪から羽ばたきが起こる。
一羽のよく知った鳥が、空へ向かって飛んでいった。





「ものにはひとの"しねん"がやどるといいます。」


さらさらと靡いた風が、今剣君の髪を撫ぜる。
振り返った今剣君がフワリと笑みを浮かべる。



「あるじさまは、ふしぎなひとですね。」





そんな言葉を残し、軽やかにその場から消えていった。



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