審神者のお役目
 


久しぶりに人間らしい食事をした。



元居た世界では、暫くは自給自足の生活で(サバイバルライフと言っても過言ではない)適当にその辺の物を採って食べていたから、料理を見たのが久しぶりだった。

忍であれば任務中持ち歩くのは精々兵糧丸で、食べ物は現地調達だから、そんな生活も別段苦ではなかったのだけど"料理を久しぶりに見た"と思わずポロリとこぼしてしまえば、瞬く間に盆に食べ物が盛られた。


今朝の一件で刀達から"腹を空かせたひもじい子"と認識されたようで、部屋に大量の菓子が届けられる始末。
というより、何だか哀れみの目で見られている気がする。



「こんなに貢いでもらって…きみ、瞬く間に人気者だなぁ。」

鶴丸さんがポリポリと煎餅を噛りながら、そんなことを言う。
顕現したばかりで色んなものに興味があるらしい。
煎餅を食べながら他の菓子にも手を出す。
見た目に反して意外とよく食べる。


「鶴丸さん、食べ物には賞味期限というものがあるのをご存知ですか?」

「ん?」


あ、やっぱりわかっていなかった。
幾つも開けられた菓子袋。

開けたら直ぐに食べきらないといけないことを伝えると、鶴丸さんはそうなのか、と幾つか開いている菓子袋を見やる。


「そうしたらきみも手伝ってくれよ。」

「…無理ですよ。もう入りません。」


朝、刀達の好意で盛られた盆の料理を全部食べてしまったのだ。
出されたものは全て食べてしまう性分も程々にしないとなぁと反省しつつ、政府から受け取った資料に目を通す。


本丸での生活については、一期さんが説明してくれるらしい。
そういえば、誰かが畑仕事が嫌だとごちっていた気がするが、畑仕事もあるのか。

ピラリ、と一枚の封筒が資料と資料の隙間から出てくる。
封を開けて中身を見る。


"戦国時代で歴史修正主義者の動きあり。
適正レベルの部隊を持つ本丸は優先的に向かうこと。"


これが政府からの依頼なのだろうか。
戦国時代…何だか物騒な時代だが存外政府からの依頼はアバウトなものだ。
というか、適正レベルってなんだ。


そんなことを考えていると、丁度一期さんが訪ねてきた。













いよいよ本題というところか。
政府からの任務について、一期が話しを進める。
しかしまぁ、こちらの世界でも相変わらず折り目正しい刀だ。


「こちらの部隊員は6名という決まりがあります。
この戦国時代はまだ誰も踏み入れていない時代…先ずは先遣隊として練度の高い者を行かせた方が良いでしょう。」

そう言い一期は書物をなまえに渡す。
横から覗きみればそこには刀剣達の能力などが書かれていた。


「その地には急いで行かなければいけないのですか?」

「いえ、そういう訳ではありませんが…」

一期の言葉になまえは思案顔をする。



「ならば先ずはあなた方の戦い慣れた場所に行きましょう。
そこで敵の情報や戦い方などを頭に入れます。」

未知の敵相手に、いきなり難易度の高い任務をすることはない。
容易なものから戦い方を身につけようという算段なのだろう。

が、そんななまえの言葉に一期はポカンとした表情をする。


「あの…主殿、敵の情報などは私達も熟知しておりますゆえ、問題ないかと。」

「言葉で聞くより実戦で慣れる方が早いので。」

というなまえの言葉に、一期は暫く考えるが一つ咳払いをした後口を開く。


「主殿、もしや戦場に行かれるおつもりで?」

「…?」

今度はなまえが不思議そうな顔をする。
そして口を開く。


「審神者は戦わないのですか。」

「おっしゃる通り、審神者は戦場には赴きません。

実際に戦うのは私達刀剣男士…主殿は私達を戦地に送り出すのが役目でございます。
審神者といえど、生きた人間が歴史を遡ることは政府より禁じられております。」

そんな一期の言葉になまえはというと、納得した素振りを見せているが、絶対に納得していないのが手に取るようにわかり、思わず笑いそうになる口元を抑える。


「…わかりました。
話しは変わりますが、政府の言う"適正レベル"とは?」

「レベルというのは刀剣の練度…強さのことです。
練度は実戦や演習、稽古を積むことで鍛えていくことができます。
練度の高い刀剣程、より強い敵と渡り合うことができます。
敵も時代や場所により強さが変わります。
適正レベルというのは、その時代、その場所の敵と互角以上に渡り合える基準になります。

なので主殿には、我々が戦場に行っている間は残っている刀剣達を鍛え、また、戦力の拡充に努めていただきます。」


敵もどんどん力を付けてきているらしい。
それに対抗するため、こちらも鍛えていかねばならないということだ。


「わかりました。
戦地でのことは、あなた方にお任せします。

が、幾つかお尋ねしたいことがあります。
まず、敵との交戦中、戦況について私が知る術はないのですか?」

「逐一…ということはできませんが、所々に政府が用意した通信用のカラクリを設置しております。
新しい合戦場に赴く際は、このカラクリを設置することも任務になります。」


隊長だけでなく、審神者もカラクリを使用して進軍の是非を判断できること。
刀剣男士が怪我をした場合、審神者の力で治せること。
そして…









その後、任務のことだけでなく本丸での日々の仕事や生活についても話があった。
俺はというと、途中で飽きてしまって庭を見たり、開けてしまった菓子を食べたりしていたのだが、当然一期に窘められた。


一期が部屋を出たあとも、なまえは前の審神者が残した資料を見続けている。

この本丸の刀剣男士や今まで戦ってきた時代や場所、敵についての情報。
そして審神者についての資料。

習うより慣れろの実践派かと思いきや
情報にも重きを置くのだから、やはり忍なのだと思う。


「なぁきみ、いつまでそんな紙を相手にしてるつもりだ?」

「自分で戦えないですからね…その分少しでも状況を把握しておかないと…」


俺の話を聞いているのかないのか、最後はまた紙っぺらに意識が向いている。


どうしてこの娘が見ず知らずのこの世界のために手を貸そうとしているのか。
あれだけ自分の世界に帰ると言い張っておきながら、この世界のことを知ろうと躍起になっている。


そんな理由は刀の俺には到底理解はできないが、まぁ退屈はしなさそうだと、再び煎餅を噛めばバリッと軽快な音が部屋に響いた。



(何をそんなに恐れることがあるのか。
きみがこの世界で失うものなんて何もありやしないというのに。)



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