それでも朝を望むか
 


「あなたは、この戦いを終わらせられるのですか。」



その名を体現するかのような
重く、冷えた声で、彼は問うてきた。



審神者になって丁度二回目の冬。
買い出しに街まで、近侍の江雪左文字と二人で来ていた。

これは宗三に、これは小夜にと
彼はいつものように弟たちへの手土産を買っていた。
そんな普通の帰り道のはずだったが、彼の一言でそれはなんとも居心地の悪いものになった。


「それは…わからないよ。
戦ってるのは私たちだけじゃない。

明日にでも、誰かが歴史修正主義者にとどめを刺すかもしれないし
来年、再来年、十年経っても終わらないかもしれない。」


彼は争いごとを好まない性格で、
彼を迎えた当初はこんな押し問答をよくしていた覚えがあるのだが
最近は諦めたのか、納得したのか、否定的な言葉は聞かなかったのだけど。

こうして口に出すのは何か思うことがあったのだろう。
彼と所謂、恋仲になってから季節は一巡したのだがそれでもこうしてわからぬことがあるのは新鮮で、淋しいものだった。

そうして私の答えに彼は特に何も言わず、帰り道を見据えながら足取りを変えずに歩き続ける。

納得したのか、気に入らなかったのか
それは言葉にしてもらはなければ分からぬ程、彼の表情はわからない。

こういう時はいくら待っても彼は言葉として形にしてくれないのは分かるので、江雪に声を掛けた。


「ねぇ、江雪…」

「あなたは、終わらせられますか。」


そう再び問うてきた江雪の目は、今度は私ではなく、私の腕を見る。
その視線をなぞり視線を落とせば、私の手には先程買った本丸の皆への手土産がぶら下がっていた。


その視線の意味することにハッとして、でも、と言い返す代わりにほんの少しの沈黙を守る。


「…終わらせるよ、だってそれが、審神者の、私の役目だもの。」


そう答えると、江雪は
そうですか。と、ほんの少しの温度を声に残し
またいつも通り、前を見て歩き出した。




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