1.
 


朝イチでトレーナーから伝えられた話で、授業が始まる前からテンションガタ落ちだった。


「なんでテンション落ちるわけ?
フジ様とかルドルフ様とかブライアン様見れるのに?!
怒るよ!!」

春に続き秋の学校対抗の模擬レースの開催が決まったのだ。
しかも丁度トレセン学園は文化祭の時期で外部からも人が来るらしい。信じられない。


「…いや、文化祭で一般公開されてるから行けば良いじゃない。」

「マジでか!!絶対行く!!!
あ、勿論ナマエちゃんの応援もするからね!」


なんでうちみたいな弱小チーム(というと先輩達に怒られるが)にも声がかかってしまったのか。
ていうか行くなら先輩達だけで組んでくれないかな。

しかし、朝のトレーナーの貼り付けた笑顔を思い出してそれは無理で、もう覆せない確定事項なのだと思考回路を停止する。


考えても仕方ない、行って走ってすぐ捌ければいい。
その朝はそうやってテンションがこれ以上落ちる事を阻止した。


















が、甘かった。

合同レース当日、トレセン学園に到着してチームメイトとウォーミングアップしていたら、突然人の気配がわらわらと増えていく。
どうやら学園祭がはじまって門から人がわんさか入ってきたらしい。

次第にガヤガヤと賑やかになっていく。
予想以上の人だかりだ。


「やっぱりトレセン凄いわね。
下手したら地方の重賞より賑わってるかも。」

「この中で走れる気がしないんですが…」


正直もうテンション底落ちだ。
頑張って走っても入着出来ないかもしれない。


「なーに弱気になってんだ!!
重賞レースになったらこれの比じゃないんだよ!!
しゃっきりしなさいっ!!」

猫背になった私の背を、もう一人の先輩がバシンと思い切り叩く。
ヒトだったら背骨イッてた。


そしてそれから1時間後、トレーナーに出走リストが手渡される。
まぁ相変わらずトレセンの競技者は多いから殆どトレセンのウマ娘とあたるのだろうけど。


「あちゃー…長距離でBNWと当たっちゃったよ。
入着無理だコレわ。」

「私はエルちゃんがいたー。
もう一回走れるの、嬉しいな。」


と先輩方が自分と走るメンバーのことを口にする。
そしてひょっこりと私の出走者リストを見る。


「ナマエちゃんマイルでしょー?
あら、ウオッカちゃんいるし…て、でぇぇええええ?!
ブライアンさんいるじゃん!!!!」

その大声に他の先輩も集まってくる。


「ふぇぇえ… ナマエちゃん、頑張れ。」

「なんていうか、凄いから。
もう圧っていうの?ゲートで並んだだけで心臓掴まれるから。」

「いいじゃんいいじゃん!!
こんな機会滅多にないよ!!本気でやりな!!!」


バンバンと先輩に背中を叩かれる。


「程々に…怪我しないように頑張ります。」

「ま、そうだな。
無事是名バ。あくまで模擬レースだからな。
ここで気合入れすぎて怪我すんなよ。」


と、テンション爆上げの先輩方を、トレーナーが穏やかに、だがしかし諌めるように言を放つ。


別に誰と走るからといって私のペースは変わらない。
にも関わらず、ザワザワと心は落ち着かなかった。



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