4.
ーーー最終コーナー、最初に飛び込んできたのはナマエ!!
このまま逃げ切れるか?!残り400m、ここでテザーラットが驚異的な末脚で上がってくる!
ここで先頭はテザーラット、テザーラットが差し切ってゴーーール!!ーー
学園内の共有スペース。
そこに珍しく、一匹狼が顔と耳をテレビに向けて座っている。
偶々なのか、狙ってなのか、ウマ娘は少ない。
「随分と熱心に見てるから重賞レースかと思えば、ジュニアのオープンじゃないかい。」
「…アマさんか。」
あたしの声に、ブライアンは頬杖をつきながらこちらを向く。
だがその顔は何とも煮えくり返らないものだ。
「なんだい、目を付けてるジュニアの娘(こ)でもいるのかい?」
「あいつ…5番のやつ…」
ブライアンが指し示すゼッケンをつけたウマ娘が、丁度クローズアップされている。
あたしもある程度、ジュニア級の面子はチェックしてるが見覚えがない。
「あの娘(こ)がどうかしたのかい?
ていうかウチの学園の娘(こ)じゃないね。」
「あぁ、春の合同模擬レースに来てたやつだ。」
だとしても、覚えてないということはその模擬レースでも目立った成績ではなかったのだろう。
そんなウマ娘が、ブライアンにとって興味の対象に入るはずがないのだが、はて。
ーーーナマエは今回も惜しかったですね。
中盤までは良いペースで逃げ切ってるのですが、終盤はスタミナ切れでここ1番の加速ができないようです。これからの課題ですねーーー
実況者がレースのリプレイを見ながら解説する。
確かに、見たまんまだ。
後半は特にペースを上げることもなく、残り400mで後方に差し切られてる。
その解説に、ブライアンはため息をつく。
「解説に何か不満が?」
「いや、別に。
不満があるとすれば、5番のレースの仕方だ。」
相変わらず言葉が足りない。
ブライアンは何を思ってそう言っているのか。
解説の言う通り、スタミナ不足で終盤まで逃げ切れていないだけなのでは。
「あいつは出ている全てのレースで入着している。
メイクデビューから未勝利を含めて6戦、うち2戦は1着、残りは5着以内だ。」
「はぁ…、要するに本気で走ってないってことかい?」
随分ウォッチしている、というのは飲み込んだ。
珍しく饒舌だ、余計なことは言わない。
「あぁそうだ。模擬レースで既にそうだった。
あいつは走ろうと思えばいくらでも走り切れるのにそれをしない。
何故だ?」
…それは知らん。
が、ブライアンにそう言われて見れば、確かにゴール後のその娘(こ)は汗こそかいてるものの、1着を取ったウマ娘より息は上がっていない。
し、何より誰よりも1番に地下バ道に向かって歩いている。
「緊張しやすいんじゃないか?
たまにいるだろ人前に出るのが苦手なやつ。
ほら、ドトウみたいなやつさ。」
「…。」
ブライアンは黙って画面を睨んだままだ。
仮に本気であのウマ娘が走ってないとして、それがこの怪物と呼ばれるウマ娘の目に止まるのが、少し不思議だった。
「…走ればわかるか。」
ボソリと呟かれたその言葉。
それに対して、ジュニアの子をいじめるんじゃないよと軽口を叩けば、そんなんじゃないと、いつもの調子で返ってきた。
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