1.
 


ヒトにはない長い尾
ヒトとは異なる耳
ヒトと比べ物にならない脚力…etc


体の象り、知能こそヒトとそう変わらないが
我々はウマ娘と呼ばれるヒトとは別の生き物。

そんなウマ娘は命も魂も焚べて走る。
何故だかウマ娘は走らなければいけない星の下に生まれたらしい。

ただ走るだけではない。
誰よりも先にゴールを駆け抜けることが至高。
それ故に多くのウマ娘たちが互いに切磋琢磨し今日も今日とて走るのだが…


「1着はピースコイズ!!
2着、ハイヤールーク!
3着、ナマエ!」

本番のレースほどではないが、称賛の喝采が上がる。
1着になったウマ娘は高らかに両腕を上げ、2着の娘(こ)は悔しそうに地面を見ている。

3着の私はというと、走りきったこと
そして…


「ピース!!自己タイム更新してるよ!」

「1着のあの子、これから伸びそうね」

「2着もあの勝負根性なら中々…」


皆の視線は勝者と、その勝者と接戦を繰り広げた勇者に釘付けになる。
その熱が冷めないうちに私はそそくさとトレーナーの元に戻る。


「お疲れさん。折角入着出来たんだからもう少し余韻に浸ればいいのに。」

「いえ、注目を浴びるのは苦手なので…」

「模擬レースだしさ、そんな硬くならんでも。
重賞レースなんて走ったらこんなの比になんないよ?」


そう、今回は都内の学園対抗の模擬レースだった。
会場はかの名声名高いトレセン学園、勿論相手も殆どトレセン学園の生徒。

入学前の厳しい入試を潜り抜けてきた猛者たち。
大きな夢を背負って日々走る輝ける者たち。


私はというと、ヒトとウマ娘共学のしがない学園の普通のウマ娘だ。
勝負事は苦手、注目を浴びるのも苦手、称賛されるのも苦手。
私はただ…


「本番は、割り切るので…」

「…ま、いいけど。
模擬レースに出ただけで大きな一歩だし。」

「すみません。」


私はただ、普通に走りたいだけの普通のウマ娘だ。
別に称賛を浴びたいわけでも速さを誇示したいわけでもない。

だが、ウマ娘が走るということはそういうことで。
それがどうにも苦手だった。



だだっ広いトレセン学園の一角にある手洗い場で顔を洗う。
トラックからは、次なる熱気で盛り上がった声が聞こえてくる。

マイルは今ので終わったから中距離かな。
中距離は適正者が多い、きっと白熱しているのだろう。
その中で1着なんて取ったあかつきには、称賛と嫉妬の嵐だ。
そんなプレッシャーの中1番初めにゴールに飛び込むなんて相当なメンタルじゃないと…


「…。」

「…。」


タオルで顔を拭いて顔を上げれば、一つ空けた隣に長い黒髪を頭の高い位置で結んだウマ娘が。

…あ、この人…


「…なんだ。」


どこかで見たことあると記憶を辿ってるうちに、不躾に見てしまっていたらしい。
しかし、金色のその瞳がこちらを映したと同時に思い出した。


「あ、すみません。知り合いに似てたもので…」


そんなわけがない。
私の知り合いにこれほどまでに強者のオーラを纏っていて、こんな美人なんていない。

知り合いに似てるだなんて嘘だ。
この人は…


「…。」

「…。」


会話を続けるつもりもなかったけど、気まずい。
うちの先輩ならこんな有名人に会えば、サインやら握手やら求めているのだろうけど…

いつ走るのか聞こうと思ったが、そんなもの出走者リストを見れば済む話だ。
ここまでで分かる通り、私は話し下手でもある。

会釈して離れようかな、そう考えたときに隣の空気が動く。


「お前、なんで本気で走らなかった?」


予想外の言葉にタオルを地面に落とす。
その視線から逃れるために、屈んでタオルを拾う。
濡れているから砂がめっちゃ付いた。


「いえ、一生懸命走りましたが…やっぱりトレセンの人は凄いですね。
全然逃げきれなくて…」

「私の目には、わざと3着を狙ったように見えたが?」




ザ・図星だった。



どこから見てたのかはわからないけど、遠目で走ってるの見ただけでそんなのわかるものなのか?
…いや、この人勝負感というかそういうの凄そうだし、一流のウマ娘は走ってる姿を一見しただけで心理までわかるのかもしれない。


「まぁ別にどうでもいいが。
…あまりうちの連中を舐めない方がいい。」


それだけ言い残し、黒鹿毛をサラサラと揺らしながらその場から離れていく。



ナリタブライアン
シャドーロールの怪物
クラシック三冠に最も近いウマ娘


レースに出る度に開くバ身、レースレコードの更新。
彼女は走る度に記録と記憶を残して行く。

その後出走した彼女の走りは、あまりにも強烈でずっと鼓動に焼き付いていた。



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