5.
「ナリタブライアン、ここで仕掛けたー!!!」
実況の声と共にブライアンは、グングン加速する。
先行集団の後方に位置していたブライアンは、1人2人と外側から綺麗にごぼう抜きを果たす。
抜かれたウマ娘はなす術はない。
あとはゴールまでただ走るしかない。
その様にレース場の熱気も上がっていく。
「先頭のナマエとの距離も7バ身、6バ身と瞬く間に詰めていく!
ジュニア級のナマエはどこまで逃げ切れるか?!」
「…っ。」
縮まる距離。
近づく背中。
ナリタブライアンは静かに金色の瞳にその背を映す。
(まだか、まだお前は全力を出さないのか。
私の見込み違いだったのか、その理性が強固なのか。
だが例え後者でも、いつまでも鎖に自らを繋いでいるというのなら…)
「ブライアン!ブライアンさらに加速する!!
最終コーナー手前で2バ身差!!
これはもう逃げ切れないか!!!」
獲物を狩る獅子の如く沈み込んだフォーム。
減速するそぶりもないその強靭な脚。
数多のヒトもウマ娘も魅了するナリタブライアンの走り。
(ブライアン、あんたはあの娘に何を見たって言うんだい。
確かにあのペースで先頭をリードし続けたのは、ジュニアにしちゃ上々なのだろうけど…)
「どうしたのアマさん、随分悩まし気な顔をしてるじゃないかい。」
ヒシアマゾンの隣に、先ほどレースを終えたフジキセキが並ぶ。
彼女のレースも相当な盛り上がりだった。
「いやブライアンがさ、あの1番の他校の娘を随分気にしてたからどんなもんかと思ってたのだけど…」
「その様子じゃ、アマさんのお眼鏡には叶わなかったってことかな?」
最終コーナーを抜けて残り400m。
ブライアンとナマエは並んでいた。
「最終直線!!
ブライアンが先頭に変わった!このまま1600mコースの自己レコード更新か?!」
「おや、意外にもハイピッチなレースみたいじゃないか。」
「ったくブライアン、すぐそこに菊花賞が控えてるっていうのにマイルで本気出してどうするんだか…。」
非公式の模擬レース、しかもジュニア相手に本気の勝負を展開するライバルに、いつもはタイマン勝負を持ち込むヒシアマゾンも呆れた表情で見る。
ナリタブライアンが先頭に立ってからは1バ身、2バ身と着実にナマエとの距離が開く。
誰もが予想した展開。
事情を深く知らないフジキセキは、残り僅かのレースを興味深く見る。
「でもさ、あの距離から伸びないね。」
「...んん?」
ナリタブライアンが2ハロン棒と1ハロン棒の間を走行するかというとき、それまで開き続けた差がピタリと止まる。
ナリタブライアンが速度をキープしているのか...
(いや、あいつがここまで来て手加減なんてするはずがない。
こりゃまさか...)
「ナリタブライアンこのままゴールまで後方を置き去りにぶっちぎる...、!!
いや、バ間が、バ間が開かない!
ここで!ここで!!なんとナマエが上がってきたぁ!!!」
誰も思いもしない展開。
いや、正確には2人を除いて予想もしない展開。
(そうこなくては...!!)
枷を外したその”期待の新人”に、本気のスパートをかけながらもナリタブライアンは笑みを隠し切れなかった。
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