4.
 


秋の合同模擬レースの開催が決まった頃。
エントリーするウマ娘たちの出走リストを作っていた。

適性やクラス、今までの戦績。
そういうものを考慮して組み込む。


出走ウマ娘の殆どがトレセン学園の生徒だが、他校のウマ娘の名前もある。
丁度マイルの出走リストに手をつけようとした時、生徒会室の扉が開く。


「見回りは終わった。異常なしだ。」

「そうか、ご苦労。
今日の生徒会の仕事はこれで終いだ。」


ナリタブライアン。

走りだけではない。
クールなようでその心に誰よりも熱い闘志を持つウマ娘。
常に強者とのレースを渇望する姿勢。

そこに私にはできない、新たな道を開いてくれる気がして生徒会に引き込んだ。
今年の皐月賞、ダービーと、同期のウマ娘達とは比べ物にならないほどのレコードで制覇し、菊花賞も制するのは必然とまで言われている実力者だ。


実はこのナリタブライアンを何処に組み込むかが、ちょっとした悩みだった。
菊花賞を見据えるなら長距離に入れるのが良いまでは思うものの、誰と当てるかだ。

姉であるビワハヤヒデとの勝負は本人もまわりの者も望んでいるところだろうが、学園の非公式のレースでそれを実現するのは野暮な気もする。
ジュニアで固めすぎても、それでは後輩達は萎縮してレースにならないだろう。
かといって…


「…どうした、ブライアン。」

いつもなら報告を終えればすぐに生徒会を後にするブライアンが、そこにいる。
その表情を見れば、何か言いたげなのは明らかで。


「次の合同レースのリストはあんたが作っているのか。」

「あぁ、これが中々悩ましいものでね。
特にブライアン、君と組ませるメンバーがね。」

「…ならば丁度いい。
照葉学園にナマエというウマ娘がいるだろう。
そいつが出るレースに出させろ。」


まさかのご指名。何たる偶然。
丁度そのナマエという娘の名をリストに刻もうとしていたその時だった。
だがしかし、この娘はマイル適正だ。
いやそれよりも…


「ブライアン、君がそうして一個人の希望を出すことは驚天動地ではあるが、模擬レースの出走者は公平に、客観的に決める。
誰か1人の希望を聞くわけには…」

「…来年の、クラシックのポスターの撮影を受ける。」





「二言は?」

「、ない。」


少しの間が気になるが、エアグルーヴやトレーナー、たづなさんが束になって説得しても聞かなかったポスターの撮影依頼をだ。

たった1人、それもまだ無声無臭の他校の後輩とのレースのために呑むだなんて。


「…君がレースでマイルを走ることは、シニア級に上がればそうそうないことだろう。
そういった点も考慮するよ。」

「恩にきる。」


そう言って黒髪を翻し生徒会室を後にしようとするブライアン。
しかし、これは合縁奇縁というものだろう。
聞く権利くらいはまだ残っているはず。


「因みに、何故この娘を?
今まで接点があるようには思えないのだが?」

「あんたと同じだ。」

「?」


くるりと振り返り、その金の瞳がしっかりと映す。


「本性を隠す厚い仮面…それを剥ぎ取りたくなっただけだ。」


それを最後に、ブライアンは生徒会室を後にした。


答えのようで答えになっていないが、私の知らないどこかでブライアンは、その娘の可能性を見出したということだ。


自然と笑みが浮かぶ。


彼女を生徒会に入れた私の目も、中々よかったのだ。



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