3.
「出走ウマ娘の紹介です。
内枠1番ナマエ、2番キャロルルーラー、3番…、そして外枠8番ナリタブライアン。」
ジュニア級5名、クラシック級3名でのレース。
普通のレースで今の時期にジュニアがクラシックのウマ娘と走ることはない。
合同模擬レースには、他校との交流、そういった経験を積む場でもあり、そして…
「チケットなしでこれだけのウマ娘のレースを見られるなんてな!」
「私ナリタブライアンのレース、生で見るのはじめて…!!」
「ブライアンのマイルなんて久々に見るな」
「ジュニア級の子には良い経験になるだろう。
来年のクラシックが楽しみだ。」
学園関係者、ファン、記者。
沢山の人やウマ娘が本番のレースさながら詰めかけるため、場慣れにもなる。というのも狙いらしい。
実際、2番枠のジュニア級のウマ娘はこの騒々しさとクラシック級のウマ娘、しかもナリタブライアンがいるとなって完全に場に飲まれている。
まぁ私も他人を心配してる余裕なんて一切ないのだけども。
チラリ、と関係者席を見る。
トレーナーがいるが、他の人と被ってここから表情が見れない。
「さぁ、出走ウマ娘全員ゲートに入りました。
1600m、右回り、第6レース…」
少しの静寂。
勢いよくゲートが開く。
「スタートはギュスクライ、少し出遅れたか。
最初に先頭を走るのはナマエ、ここでも逃げの戦法です。」
1600m。
コーナーに入る前に7バ身、いやそれよりももっとリードしておかないと、あの人は確実に追いついてくる。
残り200m地点でも、5バ身は射程圏内のはずだ。
ならば最終直線に入る前にピッチを…
「…。」
なぜ、私は勝つことを考えている?
勝つ必要がなければ、どれだけ本気で走ろうが勝てる相手ではない。
仮に2番着だったとして、この大観衆の前でそんなことをしてどうする。
いつものように、いつも通りの着地点で。
落ち着いて、落ち着いて。
これ以上ペースは…
「っ…。」
「先頭から後方まで間延びした展開になっています。
先頭を走るナマエは落ち着かない様子か、ペースが速い。
つられて2番、5番も掛かってしまっているか。」
"いつもより"確実にペースが速い。
それを抑えようとするも、勝手に脚が出てしまう。
何故、何故、と思うも背中に照準を受けているような視線のせいだ。
後ろは見ない。
見なくともわかる。
離れているにも関わらず、その眼差しで心臓に穴が開きそうだ。
「先頭が中間地点を通過。
先頭のナマエと前目につけてきたナリタブライアンは8バ身ほどの差か。
さぁナリタブライアン、何処で仕掛ける?!」
3、2、1…
心の中でのカウントダウン。
私が最終コーナーに差し掛かるその一歩前だろう。
「ナリタブライアン、ここで仕掛けたー!!」
シャドーロールの怪物の一足は、あっという間に場の空気を変えた。
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