2.
出走は、6レース目。
トレセンは幾つかトラックがあるから、別種目のレースが並行して行われており、今日はギャラリーも多いからどこもかしこも、ワッと歓声が起こっている。
その喧騒から逃れるように、人気のないあの手洗い場に来ていた。
春の合同レースと、テレビで見たあの走りを思い返す。
常に先頭を狙う瞳。
ラストスパート時の踏み込みと、姿勢の低いフォームはさながら獲物を狩る虎や獅子だ。
あっという間に先頭を呑み込み、後続をどんどん引き離すあまりにも強い脚。
黒鹿毛の長い髪と尾が、影のようだった。
「…。」
頭を冷やすために冷水で顔を洗う。
余計なことは考えない方がいい。
理性的な思考がそう判断する。
顔を上げれば秋風が、濡れた顔に冷たくぶつかる。
少し、落ち着いた気がする。
出走者の招集のアナウンスが学園全体に聞こえるように響き渡ったのを聞き、足が浮かないようにその場を後にした。
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