3月14日、完全敗北
 


私はとても頭を抱えていた。
何をといえば、イタチさんのことだ。


3日前のこと。
アジトの部屋で刀の手入れをしていれば、珍しく、本当に珍しくイタチさんが部屋を訪ねてきた。

イタチさんが用もなく来ることはない。
クナイの手入れ用具が必要なのかとイタチさんに問えば


「何か欲しいものはないか。」

「え…」


予想だにしない返答に、イタチさんを見て固まってしまう。
欲しいもの…?いや、イタチさんが欲しいものがあって訪ねてきたのではないのか。


「何か、欲しいものはないか。」

「い、今ですか…?」


もう少し説明をくれるかと思うも、一字一句、最初と同じ問いが返ってきた。

今し方まで刀の手入れをしていたものだから、欲しいものと言われても困る。
いや、このタイミングでなくとも困っただろう。


「確かに突然だったな。出直してくる。」

「え…」


困惑している私を見て、そう言いイタチさんは振り向くことなく部屋を出て行った。
至って静かな来訪だったはずなのに、嵐が過ぎ去ったように感じた。


それから毎日、それこそタイミングは違えど
「何か欲しいものはないか。」
と聞かれるもので、とても困っていた。


毎日聞かれると洗脳でもされるのか、ふと気付けば"欲しいもの"のことを考えてしまっている。

任務先で見かけた甘味屋、武具屋、着物屋…
欲しいものを探すも特段欲しいものはない。

今今買い足しが必要な備品もない。



困った。
本当に困った。



普通ならイタチさんに何か貰うなんてと断りたいところだが、疎い私とてわかる。


渡したチョコレートのお返しだ。
律儀なイタチさんのことだ、私の欲しい物を返そうと思ってくれているのだろう。

こんな気遣いをさせるなら渡さない方が良かったのだろうか。
なにか、何か手頃な欲しい物はないものか…





「別に、物にこだわる必要はないんじゃない。」


イタチさんのためだ、恥など考えている場合じゃない。
私の足りない頭と経験では解決できないと解を出し、ダメ元で小南さんを訪ねた。
そして腹を括って悩みを吐いた。

すると案外簡単に答えが返ってきた。


「物じゃなくても…いい?」

「別に、物の受け渡しをするのが目的じゃない。
気持ちを伝えるために物を使ってるだけなのだから。」


小南さんの言葉に、こんがらがっていた糸がスッと解けた気持ちになった。


「別に私は…物なんてなくても、一緒にいてくれればそれでいいのですが…」

「それをそのまま彼に言えばいい。」


ふ、と小南さんが口元に笑みを作る。

綺麗な人だと思った。
木の葉で年上の同性と接することはあまりなかったから、ほんの少し気恥ずかしい気持ちになる。


小南さんにお礼を言って、自室に戻る。
イタチさんに、ちゃんと伝えられるだろうか。


そんなことを考えていれば、トントンと控えめに扉をノックされた。
妙に緊張しながら扉を開く。


「寝ていたか。」

「いえ、起きてました。」

「そうか…。」


しん…と2人の間を沈黙が横たわる。

あれ、いつもなら何か欲しいものはないかと聞いてくれるのに…


「イタチさん?」

声をかければイタチさんは口を開き、少しの間のあとその口を再び閉じてしまった。


「とりあえず、部屋に入りませんか?」

「…そうだな、邪魔をする。」


どうしたのだろう。
表情はいつもと変わらないが、どことなく暗い。
体調が、悪いのだろうか。

イタチさんにベッドに座ってもらい、お茶を入れる。
それを渡せば、ありがとうと一言返ってきた。

とりあえず、1人分空けて自分も座る。
沈黙が、痛いわけではないが居心地の良いものではない。


「あの、イタチさん…体調が優れないんじゃ…?」

「いや、体調は問題ない。ただ…」

「ただ…?」

コップを持つイタチさんの手に視線を落とす。
木の葉にいた時より、少し大きくなった繊細な線でありながらも男の人の手だ。


「お前に返せるものが、何も思いつかないのが不甲斐なくてな。」


たぶん、チョコレートのことじゃない。
今イタチさんが言った"もの"は、そういうことじゃない。
私は焦って口を開いた。


「何言ってるんですかイタチさん。
私は今、イタチさんと一緒にいられるならそれでいい。それだけでいいんです。それに、何もしてあげられてないのは私の方で…」

「嬉しかったよ。」

「え?」

「この前貰ったチョコレート、とても嬉しかったよ。」


泣きそうになった。
単純にチョコレートが好きで、嬉しいと言ってるんじゃないとわかったから。


「お返しは…その言葉で私には充分すぎです…」

「そうか…お前は昔から欲がないからな。」


俯く私の頭をイタチさんが撫でる。
もう、これだけで十分だ。心は一杯だった。

でも、それじゃあ私だけが満たされただけでイタチさんは目的を果たせていない。
撫でてくれるその手に、懐古する。


「一つだけ…お願い、いいですか。」

まだ勇気のない自分を吐き出すため、ほんの少し深呼吸をする。
イタチさんは何も言わずに待ってくれる。


「その…額を、指で突いて欲しいなって…」

言ってしまって凄く後悔した。
今ので伝わっただろうか。自分でも何を言ってるか分からなくなった。

額を指で突いて欲しいって何だ。
でもイタチさんがいつもサスケにやっていたあれをどう形容すればいいかわからず、見た通りのまま言ってしまった。

あの行為に名称はあったのだろうか。
ていうか、サスケのことなんてイタチさんの地雷じゃ…


「あぁ、サスケにやっていたあれか。」

「あの、無理はしなくて大丈夫なので…」

「そんなものでいいなら。こっちを向いて目を瞑れ。」


イタチさんの言うとおりに、目を瞑りイタチさんに顔を向ける。
ハッキリ言って恥ずかしいけど、無理を頼んだのはこっちなのだからグズグズはしていられない。


布の擦れる音、イタチさんの動く気配。
ほんの少し、いや今思えば結構、サスケを羨ましく思っていた。
イタチさんに簡単に触れてもらえるサスケを…


「…」


バクバクと心臓の鼓動が早まる。

触れたのは額と指ではない。
唇に感じる感触はイタチさんの唇だ。

角度を変えて、さらに深くなる。
ほんの少しだろう、体重を掛けられればいとも簡単にベッドに沈んだ。


「っ…!」


息が続かず、イタチさんの肩を叩く。
すると素直に離れてくれた。


「い…イタチさんっ…」

「悪いな、あまりにお前が愛らしくてな。」


私は心臓も乱れ切って顔も真っ赤だと言うのに、イタチさんは相変わらず涼しい顔をしていた。


「これでは、また俺が貰ってしまう側だな。」

「〜〜!わ、私も…ほしかったので…」


問題ないです。と続く語尾は、再びイタチさんに奪われた。



貴方からは貰うよりも与えたい。
そう思うも、結局与えてもらうのはいつも私の方だ。




















ーーーーあとがき
めっっっっちゃくちゃ遅くなり申し訳ありません!!!!!
もう9月ですね?!ほぼ半年お待たせした上に、微裏にもならず申し訳ないですーーーー。゚(゚´Д`゚)゚。

ちょこっと裏話的なことをしますと、イタチさんがデコトンしなかったのは、サスケのように"また今度"をしたくなかったということを表現したかったですが、入れ込めなかったのでここに記させてもらいます。
色々精進したいですー…

改めて、リクエストいただきありがとうございました!
そして大変お待たせしてしまい申し訳ありません( ; ; )
また3万打企画しますので、ご参加頂けますと幸いです(o^^o)





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